第180話「罰」

 罰は何だろうと思ったけど、学校周辺の清掃で、それも蛍とふたりでやってよいというものだった。


「軽いですね」


「重い罰だと周囲に説明しなきゃいけないもの」

 

 驚くと、シェラに苦い顔で即答された。

 事情を話して真似するような生徒がほかに出たら困るってことか。


 俺だって蛍かフィーネといっしょじゃなかったら、近づきたくもない危ない橋だったんだけど、説明されただけの人間にわかるはずないもんな。


 シェラから渡された掃除道具を持って生徒会室を出たところを、壁に背中をくっつけていたウルスラが呼び止めてくる。


「で? 何をやったんだ? 聞かせろよ」


 彼女はニヤッと悪童のような笑みを浮かべているが、隣のアインは憂鬱そうな顔だった。


「どうせまたエースケが無茶をやって、蛍が付き合ったんだろう」

 

 とアインが決めつけるが、正解なので俺は笑ってしまう。


「ほとんど合ってる」


 と言うと、


「私は共犯のつもりなのですが」


 蛍はすこしだけ納得がいかないという表情になる。

 

「いや~……」


 これには俺もとっさが言葉が見つからず、アインとウルスラも困惑して視線を交わしあう。


「それがしは何か不思議なことを申しましたか?」


 と蛍は首をかしげる。


「発案者の俺のほうが責任は大きいって考えていたんだよ」


 なだめるような気持ちで俺が言うと、


「自分の意思で付き合ったのだから、それがしも同じ責任があるのでは?」


 彼女はやはり納得しない顔で切り返してきた。

 うん、言い聞かせるのは無理だな。


「そうだな。お前のその考えを尊重しよう」


 と俺は話を切り上げるほうを選ぶ。


「何やら対話をあきらめられたような気がして、釈然としないのですが」


 蛍は言ったが声は大きくない。

 話を変えようとする俺の意向を尊重してくれたようだ。

 

「罰が終わったら、また探索を再開しないか?」


 リーダーとして方針を提案してみる。


「ボクはかまわないけどさ、禁止されてねーの?」


 とウルスラが目を丸くして俺の顔を見つめてきた。

 

「罰は与えられたけど、禁止事項はとくになかったな」


 俺はにやりと笑う。


 あくまでも偶然だったと思われているのだとしたら、作戦は成功したと言っていい。


 思い通り、なんてな。


「エースケ、悪い顔をしているよ」


 アインが呆れた表情で指摘してくる。

 

「たしかに悪だくみが似合いそうな顔だよなー」

 

 とウルスラも両手を頭の後ろで組みながら賛成した。


「俺ってそんな顔をしているか?」


 目立たないモブ顔ってイメージなんだけど。


「味があってよいと思いますよ」


 と蛍がわざわざフォローしてくれたあたり、ふたりの言ってることは正しいと考えたほうがいいな。


「ま、悪だくみのひとつくらい俺だってするさ」


 別に開き直ったわけじゃない。

 自分が正しいと思ったことなんて一度もないからな。

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