第179話「引き取り」
「無茶をするわね、あなたたち!?」
フィーネは目を見開き、
「ほんと。信じられない」
シェラは冷ややかな一瞥とともに第一声を放つ。
ふたりとも息を切らせていて、急いで駆けつけてくれたに違いない。
「はい、ご心配をおかけしました」
蛍が俺をかばうように先に謝ってしまう。
「いや、悪いのは俺だろ。誘ったんだから」
ここで彼女にかばわれたままだと立つ瀬がない。
そもそもこのふたりが彼女の言葉を信じるとも思えなかった。
「……君のことだから勝算なしだったとは思わないけど」
とシェラ。
「もっと慎重な人だと思っていたわ」
とフィーネ。
先輩たちはジト目を向けてくる。
「いや、狙ってやったわけじゃないですよ」
これはウソじゃない。
ガルヴァと出会えたらいいなと思っていたけど、いきなり遭遇できたのはうれしい誤算だったのだ。
「……嘘はついてなさそうね」
じーっと俺の顔を見ていたフィーネが言う。
「先輩?」
シェラは意外そうに彼女に視線を向ける。
「けど、全部は話していないって感じね」
いい勘をしていると、こんな状況じゃなきゃ素直に舌を巻いた。
「ええっと……」
今後の信頼関係を思えば、嘘はつかないほうがいい。
「もしかして、という期待はありました。蛍が一緒なら、敵が強くても逃げるくらいはできるかなって」
「もちろん、エースケ殿はそれがしがお守りいたします」
蛍に言葉をかぶせられてしまった。
「愛されてるわね」
とフィーネもたまらず吹き出し、ハッとなった蛍が真っ赤になる。
「国にはわたしたちから通報している。わたしたちはあなたたちを引き取りに来た」
とシェラがクールに言った。
身元引受人ってことだな。
「ご足労をおかけしました」
背筋を伸ばして頭を下げる。
彼女たちに迷惑をかけたのは事実で、けじめとして謝罪の一つは必要だろう。
「申し訳ありません」
蛍も俺にならって頭を下げると、フィーネはにこりとする。
「無事で何よりだったわ」
フィーネは優しいが、シェラの冷たい態度は崩れない。
正直、シェラと同じ意見である。
フィーネの甘さに意外なくらいだ。
先輩たちが引き取りに来てくれたおかげで、俺たちは狭い部屋から解放されて、帰路につける。
「フィーネ先輩は甘いです」
とシェラが俺と蛍の前を歩きながら、隣のフィーネへ不満をこぼす。
「結果オーライでしょ」
とフィーネはふり向いて俺にウインクを飛ばしてくる。
「はぁ」
ここまで物分かりがいいとかえって何か裏があるんじゃないかって勘繰りたくなってしまう。
フィーネはそんな性格じゃないはずだけど。
「彼らには勝手なことをした罰を受けてもらいたいです」
とシェラは言う。
「そうね。さすがにおとがめなしは難しいでしょうね」
フィーネの返事を聞いて蛍は驚いていたが、俺は逆に納得した。
俺たちに優しく接することと、罰を与えないことは矛盾しない。
このほうがフィーネらしいと言える。
「蛍には悪いけどな。俺につき合わせただけだから」
と言うと、
「滅相もありません。一蓮托生です」
なぜか張り切った笑顔とセットで返事が来た。
「ふたりには反省文を提出してもらうわ。それで終わりよ」
とフィーネが言う。
「それだけですか?」
俺とシェラの声が重なった。
「不審者を捕らえた功績があるからね。罰は罰、手柄は手柄。わけて考えるべきよ」
というのがフィーネの意見だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます