第178話「信じてくれない」

 警備兵は拘束した輩を受け取ってくれたものの、俺たちの言うことを信じてくれなかった。


 それどころか、俺たちのことを疑わしそうな目で見てくる始末。

 蛍が沸点の低い性格だったら厄介なことになっていだろう。


 仕方がない、犯罪者にされるよりはマシか。


「俺たちはフィーネ・グルンヴァルドさんとシェラ・ロングフォードさんの後輩です。嘘だと思うならオウス学園に照会してみてください」


 と俺は頼む。


 本人を知らなくても不思議じゃないが、グルンヴァルドとロングフォードの家名を知らないはずがない。


 特にグルンヴァルド家のほうは有名である。


 うさんくさそうな目で俺たちを見ていた警備兵のおじさんたちは、互いの顔を見合わせた。


「なら、しばらく待っていろ」


 と言われてひとりが奥に引っ込む。

 通信アイテムでも使うのだろう。


「まったく信じてもらえませんでしたね」


 予想してなかったわけでもないため、ささやいてくる蛍は苦笑に近い表情になっている。


「仕方ないな。この人たちからすれば俺たちはただの子供なんだから」


 と俺は肩をすくめた。

 学園のなかでも俺たちのことを信じてくれそうな人たちはかぎられている。


 フィーネ、シェラ、アイン、ウルスラ、それからウィガンくらいだろうか?


「年齢は足かせになりますね」


 蛍は何やら不満そうだ。

 入学前、ダンジョンに挑むのを止められていたことでも思い出したんだろうか。


 意外とこういうところで彼女は割り切れないらしい。

 

「何かついてますか?」


 まじまじと整った顔を見ていたせいか、蛍は首をかしげる。

 

「いや、思ったより子供っぽくて可愛らしいところがあるんだなと思って」


「なっ……」


 蛍はみるみるうちに真っ赤になっていく。

 子供っぽいって面と向かって言ったのはさすがにまずかったか。


 反省していると、「可愛いって言われるなんて」という蚊の鳴くような声が聞こえる。


 あっ、そっちだったか。

 ついつい口にしてしまうんだよな。


 どっちかと言うとシジマ・エースケとしての性格だと思うが。

 

「女性にすぐそういうのはよくないと思いますよ」


 気を取り直したらしい蛍が忠告してくる。


「可愛い子に可愛いって言うのはダメなのかな?」


 さすがに女の子を褒めるのが礼儀とまでは考えていないけど、ダメって言われるのは何となく納得がいかない。


「軽薄な殿方だと誤解を招きかねないです。誰でも気軽に褒めるような方は、信用を得にくくなってしまうかもしれませんよ」


 というのは蛍の善意からの発言だろう。

 だったらまず誤解をといておかないと。


「俺は誰でも褒めたりしないよ。ちゃんと相手を選んでるつもりだ」


「え、う、あ……」


 誤解をとこうとしたはずなのに、何でか蛍の動揺が激しい。

 なんか間違えたっぽいけど、心当たりがない。


 かと言って真っ赤になって動揺している彼女に直接聞くのはどうかと思うしな。


 近くにいる警備兵が俺たちをカップルを見るような目で見ている気がするのは、考えすぎだろう。


 きっと俺たちを監視しているだけだ。

 なんて思っていたら奥に引っ込んだ男が戻ってきて、咳ばらいをする。


「とりあえずオウス学園から関係者が来るそうだ。それまで待っていてほしいとのことだ」


「わかりました」

 

 呆れたような視線に気づかないふりをしながら返事した。


 俺たちの身元は保証されるだろうが、怒りをやわらげるための言い訳をいまから考えておかないと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る