第173話「これはもうデート2」

「とりあえずデートらしくどこか買いものに行ってみるか?」


 むろん半分くらいは冗談だ。

 森丘の中へ入らず、周辺をうろつくためには相応の理由が必要になる。


 男女が二人でデートしていると周囲に思われる行為って、やっぱり買いものが無難じゃないだろうか。


「いいですね。見たい店などはありますか?」


 蛍は笑顔で賛成する。




「ないなぁ。どこに何があるのか知らないし」




 もちろん嘘だ。




 ヘレヘレ森丘の付近には女の子に人気のファッションショップと、男に人気の大盛り飲食店があると知っている。




 だが、何でもかんでも知っていると思われるのはそろそろリスキーだろうから、知らないこともあるんだよとアピールしておきたい。




「そうなのですね。エースケ殿なら何かご存じかと思ったのですが。それがしもよく知りません」




 と蛍は残念そうに答える。




 この子はダンジョンや戦闘の下調べはしっかりするが、それ以外はわりと適当なところがあった。




 戦闘以外のことはろくに知らない武人系ヒロインなのである。




「そうか。何があるのか楽しみにしておくのも悪くないんじゃないか?」




 せっかくデートを引き受けてくれたんだし、そもそも俺の考えに賛成してリスクある行動につき合ってくれるんだから、多少楽しみがあってもかまわないだろう。




「そうですね。ふふ、何やら本当に逢瀬のような気がしてきましたよ」




 蛍は俺のアイデアが気に入ったらしく、目に見えて機嫌がよくなった。




「それはよかった。いつも付き合ってくれて感謝している」




 と彼女に言う。


 この気持ちは定期的に伝えておきたいと思うからだ。




「それがしのほうこそ、エースケ殿には感謝しておりますよ」




 蛍は透明感のある笑みを向ける。




「感謝されるようなことをしたか?」




 謙遜じゃなくて、本気で心当たりがない。




「異郷にひとりやってきて正直心細い時もあったのですが、エースケ殿のおかげでそれを感じずにすんでおるのですよ」




 と言われてはたと気づく。


 そう言えば蛍はこっちに知り合いは一人もいないって現状だったっけ。




 凛々しい武人でそういう弱い部分はなかなか見せてくれないから、うっかり失念しそうになっていた。




「そうだったか。役に立ててよかったよ」




「……エースケ殿、何にも考えてなかったというお顔をなさっていますよ」




 何とか言葉を選んだ俺を見て、蛍はくすりと笑う。




「おっとそうかな?」




 自分の両頬をぺたぺたと触る。




「エースケ殿は表情を取り繕うのはとてもお上手なのに、まれに無防備な時がありますね」




 彼女はうれしそうに言った。


 その指摘は正しいと思う。




 予想外のタイミングで想定外の一撃をもらうと俺は弱いんだ。


 今の蛍にされたみたいに。




「俺の弱い点は蛍に補ってもらおうかな」




「承知いたしました。誠心誠意励みましょう」




 冗談で言ったことだったが、蛍は笑顔で承知してくれた。


 これはもう撤回できないな。

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