第167話「秩序に対する挑戦②」
アインとウルスラははっきりと緊張している。
敵は国家秩序への挑戦者、要するにテロリストだと明言したようなもんだから当然だ。
経験値と肝の据わり方が違う蛍と、前世の知識で予想ができていた俺のほうが例外だろう。
「ここは撤退したほうがいいかなと思うのですが、いかがですか?」
「慎重ね。責任感のある男は嫌いじゃないわよ」
フィーネは優しく笑って俺の提案を受け入れた。
本当はここで突撃して、原因を排除したいんだけどなぁ。
敵の戦力がわからない状況だと反対意見をねじ伏せるのが難しい。
充分な戦力を用意するか、リスクを冒すだけの価値があると主張できる材料が必要だ。
あるいは偶然遭遇してそこから戦闘になるか。
……実のところ俺が狙っていたのはこの三番目の選択肢なんだが、上手くいかないものだ。
ガルヴァ一人ならこの面子なら撃破できるはずなんだが、フィクションでたまに扱われていた「歴史の修正力」なんてものはないよな?
あるならとっくに存在を認識するような展開が発生している気がするが。
「そういうわけでここは撤退ね」
フィーネがみんなに言う。
彼女が決断を下して伝えたということは、「俺をリーダーにした臨時パーティー」はここで終了ということだ。
「仕方ねーか」
「危険を考慮すればやむを得ません」
ウルスラは残念そうだったが、蛍のほうは早くも割り切ったようである。
アインは悔しそうにうつむいているけど反対はしなかった。
フィーネが自分の【道具袋】から一本の黄色い杖を取り出す。
「これを使うわ。【記憶の杖】よ」
「それの効果について教わってもいいですか?」
フィーネに俺はたずねた。
今のところなさそうなんだけど、一応ゲームとこの世界で食い違いがないかたしかめておこう。
「このパーティーがこの位置に来たと記録した状態で、ダンジョンの外に脱出できるのよ。この面子で入り口に入ったところで使えば、ここまで戻って来ることができる」
知っている通りだったのでフィーネの説明にうなずいた。
【記憶の杖】の面倒なところはメンバーが一人でも欠けていたり、入れ替わっていたら使えなくなる点だろう。
壊れたら使えなくなる点は他のアイテムと同じだし。
「便利なアイテムなんですね」
アインが感心している。
「そのうち作るのが俺の役目だな」
錬金術師のメリットはまさにここにあるからな。
「おおー、便利アイテムを作ってもらえたら最高だな!」
ウルスラが明るく言った。
「ちなみに材料集めるのはお前らの仕事な」
いい雰囲気なので冗談っぽく言ってみる。
「あ、やっぱり?」
「当然ですね。頑張ります」
蛍は生真面目な答えを返しつつ微笑んだ。
「すでに気持ちの切り替えができているのね」
「本当にいいパーティーね」
シェラは驚き、フィーネは満足そうに言った。
そしてフィーネが【記憶の杖】を上に向かってかざし、その効果は発動する。
俺たちは光の粒子の奔流に全身を包まれ、気づいた時はダンジョンの外に出ていた。
「無事に戻って来れましたね」
と俺は言った。
脱出系アイテムの使用を禁止されているということはなかったらしい。
「なーに言ってんの!」
ウルスラは笑ったが、蛍、フィーネ、シェラの三人は笑わなかった。
「その可能性に気づいていただなんて、末恐ろしいわね」
とシェラが舌を巻く。
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