第166話「秩序に対する挑戦」

 オロオロチの群れを倒しながら第六階層までやってきたが、休憩を挟んだおかげで主力たちはピンピンしている。


 むしろ俺だけが疲れはじめた可能性すらあった。


「シジマくん、けっこうタフね」


 シェラが意外さを隠せないという顔で言う。


「毎日のように蛍とダンジョンにもぐっていたので、ダンジョン探索の体力だけはたっぷりあるんですよ」


 実のところ俺とアインはろくに戦闘していないから、パーティーの中で疲れていないのは当たり前だった。


「もしかしてこういう事態に備えて、鍛錬を積んでいたのかしら?」


 フィーネが思いついたように聞いてくる。

 ウルスラとアインとシェラがえっという顔をして、こっちを凝視してきた。


「まさか。いくら何でもそこまで考えていませんよ」


 俺は笑って否定する。

 想定していたのは学園を卒業してからのことなので、嘘をついたわけじゃない。


「会長。彼がどれだけ優秀でも、さすがに未来予知は無理でしょう」


 シェラが微苦笑を浮かべつつ言う。

 

「それはそうね」


 フィーネは笑って認める。

 彼女だって本気で考えていたわけじゃないのだろう。


 感情が顔に出にくいタイプでよかったぜ。

 じゃなかったら違和感くらいは持たれていたかもしれない。


「話を戻すとして、第五階層を踏破した段階で戦ったのはオロオロチだけ。これは異常ですよね」


 俺がそう言うと二人の先輩は同時にうなずく。


「第三階層からミズワームなども出るからね」


 シェラがそう言った。

 ミズワームは水中に適応したワームで、強さは特に変わらない。


 オロオロチの群れと一緒に出て来られると面倒になるんだが、そいつらは影も形もなかった。


「考えてみれば森の時も変だったんですよ。特定の種類だけやたらと見かけた気がします」


 ここまで言ったら仮説をにおわせてみるのはかまわないと判断し、言葉に出す。


「……そうですよね」


 あの時も俺のそばにいた蛍は笑いもせず、否定もしなかった。

 表情から推測するに同じようなことをすでに考えていたのかもしれない。


「そういう情報は私たちも得ているわ」


 と言ったフィーネも、シェラも顔はけわしかった。


「てんこ森と同じ現象が起こっているのは、はたして偶然かな?」


 シェラはそう言うが彼女の表情から偶然とは思っていないことがわかる。


「偶然とは思えねーよな。てんこ森とここってそこまで離れてねーもん」


 ウルスラが顔をしかめながら言った。

 みんな可能性の一つとしては気づいていたということか。


「この戦力ではたして足りると思いますか、会長?」


 俺は真面目な顔で相談する。


 個人的には戦力は充分足りているし、ガルヴァだって倒せると思っているが、「一年生がそれを知っているのは不自然」なのだ。


 不安そうな顔をするとわざとらしくなるかもしれないので、感情を殺すように心がけてフィーネを見る。


「私、ロングフォード、それに風連坂さんがいれば足りている気はするけど、不安は残るわね」


 彼女は冷静な受け答えをした。


「オロオロチの群れを突破するだけなら足りるけど、事件を起こしてる奴の戦力が未知数だから、でしょうか?」


 俺は確認の意味で問いかけたし、フィーネもこちらの意図を汲みとったらしく大きくうなずく。


「ええ。二つのダンジョンで異常を発生させているとなると、もはや学園へのいたずらですまないわ。これは国家秩序に対する挑戦よ」


 と言い放つ。

 同感だけど彼女がそう言うとなると、スケールがデカくなってくるなぁ。

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