第163話「あくまでも仮説が当たっていれば②」

「俺たちだけだったら今すぐ撤退するところだが、先輩たちがいれば突破できてしまうだろう。進んでみよう」


「わかりました」


 蛍は返事をし、ウルスラとアインは小さくうなずく。


「後輩の期待には応えないとね」


「ですね」


 フィーネとシェラも反対じゃないようだった。


 オロオロチが十五体くらい、二人だけでも片付く程度の相手ということもあるだろう。


「誰が戦う?」


 ウルスラが問いかける。

 決めるのはやっぱり俺なんだろう。


「会長と蛍の二人が協力してというのはどうだろう。ロングフォード先輩とウルスラには周囲を警戒してほしい。新手が出てくるかもしれないから」


「了解」

 

 蛍、フィーネ、シェラ、ウルスラの順に返事が来る。

 と言っても0.1秒かその程度のずれでしかなかったが。


「それがしが切り込むので先輩には援護をお願いしてもいいでしょうか?」


「そのほうがいいわね」


 蛍の提案にフィーネが賛同する。

 聖騎士はもともと仲間の支援を得意とするジョブだからな。


 一方でサムライはジョブとしての適性は高くない。

 蛍本人の戦闘力と多彩な技能のおかげでカバーしてるだけだ。


 蛍が左から切り込む。

 一対一はもちろん、五対一でもオロオロチでは彼女の敵にはなりえない。


 そう断言してもいいくらい圧倒的な展開だった。


 しかし、それでも残りのオロオロチが横に回り込んだり、俺たちのほうへ抜けようとしてくるのは防げない。


 将来的には、あるいは消耗を度外視すれば何とかできる可能性はあるかもしれないが、今の蛍はそんな行動を選ばなかった。


 蛍の右横に移動したオロオロチを迎え撃ったのはフィーネである。

 彼女は縦で蛍の側面を守りつつ、槍で一体ずつオロオロチを葬っていく。


 鈍重な動きだったらオロオロチにすり抜けられていただろうが、フィーネの槍は風のように速く軽やかで、槍のリーチを充分に活かしている。


 万が一彼女の槍をかいくぐって俺たちのところまで届いたとしても、その瞬間シェラによって焼かれることは確実なので安心して見守っていた。


 十五体のオロオロチが片づけられるまで、おそらく五分はかからなかっただろう。


 モンスターたちからすれば理不尽なほどの戦力差である。

 見ていてすがすがしい、と当事者なのに第三者みたいな感想すら抱いてしまう。


「エースケ殿、終わりましたよ」


 蛍は油断なく周囲を警戒しながら報告してくる。


「ウルスラ、周囲の敵の動きは?」


 そこで俺はウルスラに働いてもらうことにした。


「うんと、奥のほうからオロオロチがいやがると思う。数は二十くらい」


 彼女は顔をしかめながら伝える。


「またオロオロチか」


 アインがいやそうにうめく。


「いったい何なんだ」


 俺も舌打ちしたくなる。

 ここまできたら何かあるに決まっているが、いったい何があるというんだろう。


 正直なところオロオロチは大して強いモンスターじゃないので、増殖させる意味がわからない。


 ……前回は虫で今回はヘビ系か?


 考えられるとすれば何者かがモンスターを大量発生させるための手段の実験しているってところか。


 ガルヴァかどうかまではわからないが、似たような立場の奴らがいてもおかしくない。

 

 ゲームじゃ出てこなかった端役あたりまで可能性を広げれば、否定できる話じゃないはずだ。

 

 俺の仮説が当たってるとすれば相当面倒なことになってくるので、できれば外れていてほしい。


「エースケ、どうするんだ?」


 考えごとをしているとウルスラに確認される。


「みんなまだ休憩はいらないかな?」


 全員がうなずいたので進むことを決めた。


「じゃあ行こう」


 何者か知らないが、蛍・フィーネ・シェラが揃ってる今の段階で始末できたらいい……あくまでも仮説が当たっていればだが。

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