第164話「相変わらずぬかりがない」

「はぁ!」


 蛍とフィーネによってオロオロチの群れは一蹴される。


 まだまだ疲労は大したことはないが、少しずつ削られていっているといういやな感覚があった。


 たいていの二年パーティーでも厳しくなってくるんじゃないだろうか。

 とりあえず周囲の敵を一掃できたところで提案する。


「一回休憩しませんか?」


 シェラとフィーネは賛成も反対もせず、他の仲間たちの反応をうかがう。

 

「少し早い気がするけど、何か理由があるのか?」


 ウルスラが俺に聞いてくる。


「みんなまだ充分に余裕があると思うけど」


 アインは少し困惑していた。


「だからさ。このまま進み続けるなら、おそらく長期戦を覚悟することになる」


 そう答えてから【道具袋】を示す。


「念のため、この人数で三日分探索を続けられるようなアイテムを持ってきたが」


「日帰り調査と聞いてたはずなのに慎重だな」


 ウルスラが目を見開く。 

 彼女はそこまで警戒していなかったのか。


「それがしは一日分ですね……」


 蛍が反省するように自分の【道具袋】を触る。

 

「それは普通ね」


 とシェラが言った。


「私とシェラも二日分ずつだから、シジマくんが慎重なのよね」


 フィーネが合格と言いたそうな顔で話す。

 まあさすがに考えすぎ、慎重になりすぎだと自分でも思う。


「それくらいのほうがいいわよ。未知の現象なんだから」


 フィーネの評価にうなずく。


「僕の認識、甘かったみたいだね」


 アインが反省するとウルスラがなぐさめる。


「この場合、エースケがいい意味で異常だろ? 先輩たちよりも慎重で持ち込んだアイテムが多いとか、普通想像できねーよ」


 それはその通りだと俺も思う。

 彼女たちの素晴らしいところは俺を臆病者だと笑わないところだ。


「彼は慎重さと大胆さをバランスよく備えているように感じますね」


「得がたい資質ね」


 シェラとフィーネが小声で話しているのが聞こえたが、聞こえなかったふりをしておこう。


 しばらく休んでからまず俺が立ち上がる。


 シェラとフィーネはおそらくどれくらい休憩時間を取るか、俺に決めさせるだろうと予想したからだ。


 蛍が無言で続き、シェラとフィーネがそっと立ち上がる。


「そろそろ終わりか」


 最後になったのはアインとウルスラだった。


「まあね。まだ何があるのかわからない以上、休みをとりすぎるわけにもいかないだろう。原因さえわかっていればまた違うが」


 なんて俺は説明するが、原因次第ではなおさら休めなくなる展開だってありえるよなと思う。


 このタイミングでいちいち言って無駄に不安を煽る必要もないので言わないが。


「そりゃまあそーだ」


 ウルスラだってわかっていないこともなかったのだろう。

 再び隊列を戻して俺たちは奥へと進んでいく。


 ……当然ながら俺は知っているが、学園の一年生だと知らなくても不思議じゃない点があるので聞いておこう。


「ここのダンジョンはすべてで何階層まであるのですか? 自分で仕入れた情報によると十五階層とのことですが」


「十五層であってるよ」


 シェラが答えてくれる。


「いつの間に下調べしたんだ……?」


「エースケのこういうところ謎すぎるよね」


 ウルスラとアインは驚き慄いているが、ゲームの知識ですとは言えないなぁ。

 言ったところで信じてもらえないだろう。


「相変わらずぬかりがないわね」


 フィーネが褒めてくれたので頭を下げておいた。

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