第162話「あくまでも仮説が当たっていれば」

「【荒れる雷震】」


 シェラが唱えた魔法が八体のオロオロチを粉砕する。

 圧倒的な火力だとしか言いようがない。


「さすが」


 フィーネも彼女を称賛し、蛍たちは目を丸くしている。


 魔力が充分あるかぎりシェラの殲滅力は全キャラクター中五位に入るんじゃないだろうか?


 この人なんでメインヒロインじゃなかったんだろうと今ちょっと思った。


「どうだった、シジマくん?」


 シェラはうすく笑いながら問いかけてくる。


「先輩と会長と蛍の組み合わせは強すぎて反則なんじゃないかと思いました」


 最終的に世界を救うベストメンバーとサブメンバーだから当然なんだが。

 二、三人ほど足りないけども。


「今回の件に関しては過剰戦力じゃねー、これ?」


 ウルスラが呆れたように言った。

 

「言いたいことは解るが、油断は禁物だ。過剰戦力だったらいいな、というのが現時点での俺の意見だ」


 何もないのが一番に決まっているが、ゲームの情報にない出来事が発生しているんだから楽観することはできない。


「おう。そうだな。悪かったよ」


 ウルスラは素直に自分の非を認めて反省する。

 こういうところが彼女のいいところだ。


 がさつな言葉遣いとは裏腹にとてもいい子だと思う。


「ウルスラってそういうところが美点だね」


 アインがさっそく彼女を褒めて、彼女は照れている。


 ほんのちょっとだけいい雰囲気になっているところすまないが、ダンジョン探索に戻りたい。


「悪いが先に行くぞ?」


 声をかけると二人は体をぴくっと震わせる。


「な、何も悪くないぞ。なぁ?」


「う、うん。やだなぁ、エースケは」


 ウルスラとアインはあたふたとした。

 動揺を隠せない初々しいカップル(たぶんまだその前の段階だが)と思う。


 蛍、フィーネ、シェラも俺と似たような表情で二人のことを見守っている。

 そのことに気づいた二人は必死に咳払いをした。


「会長、最初に進んでもらってもいいですか?」


「ええ」


 フィーネはそう言って前に出ると蛍が横に並び、アインとウルスラも慌てて彼女たちに続く。


 どさくさにまぎれて会長呼びするようになったけど、特に咎められないならこれからはそう呼ぶことにしよう。


 実のところ会長かフィーネと呼ぶほうが俺の中じゃしっくりくるという理由もある。


 第一階層はひたすらオロオロチを狩り続けるという形で終わった。

 下への階段に着いたのだ。


 みんなの視線は俺へと集まる。


「さあ、どうする?」


 決めるのは臨時的にリーダーをやっている俺か。


「進みましょう」


 ここは迷うところじゃない。


「オロオロチ以外一切出てこないのは異常なんだろうし、その手がかりもまったくないわけですから」


 嫌な予感は今のところあんまりないというのもある。

 二階層に入っていきなり敵のレベルがはねあがる危険も少ないだろう。


 仮にそんなことが起こったとしても、この面子なら大体は大丈夫な可能性が高い。


「ええ、そうね」


「勇敢な決断です」


 フィーネは当然という顔で、シェラは少し微笑みながら答える。

 シェラにとっては好ましい判断だったようだ。


「まあ何とかなるだろ」


「慎重に行こう」


 ウルスラはあっけらかんと、アインは警戒するように言う。

 蛍は自然体でうなずいただけだ。

 

 そしてフィーネを先頭に、次にウルスラ、それからアイン、俺、蛍という順で階段をおりる。


 先頭と最後尾に強い戦力を配置するのが基本だと思うが、自然とできていた。

 今まではあんまり気にしなかったが、気にしたほうがいいのはたしかだ。


 二階層に足を踏み入れた俺たちをオロオロチの群れが出迎える。


「全部で十五体とは」


 さすがのフィーネも少し驚いているようだった。

 階段と目の鼻の先の位置にすでにわいているのは、たしかに珍しい。

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