第161話「俺ってもしかして自己評価低い?」
「それがしたちはあなたを信じて集まったのですよ?」
蛍に優しくたしなめられる。
もしかして俺って自己評価高くなかったりするのか?
「んー、自己評価と他者評価にズレがある可能性が出てきた予感がしてきたな」
なんて言うと、
「今気づいたのかよ」
「だってエースケだからね」
ウルスラとアインに呆れられた。
これは旗色が悪いな。
「うん、反省する。反省するから探索に戻ろうぜ?」
とウルスラに言う。
さっき彼女が言ったばかりのセリフである。
とりあえず探索に戻り、サクサクと進んでいく。
そうそう波乱なんてあってたまるかって話だしなぁ。
学園内のダンジョンに何かあるくらいなら、もっとやばい危機が起こっても変じゃないからだ。
学園の教師陣は基本的に今の俺たちよりは強い。
フィーネに勝てる人は何人いるか怪しいが、これはフィーネがおかしいだけだ。
フィーネは育て方次第では万能型勇者に匹敵しそうなレベルになる。
開発に優遇されたキャラの一人だと言えるだろう。
……そこまでとはいかなくても迫れるくらいになるまでは仕上げたい。
第五階層に着いたところで三人は俺を見て意見を求めてくる。
「どうする、エースケ? 今んところ大して消耗してねーぜ、ボクら」
「挑戦してみようか」
俺は決断した。
ギンギラウルフは知ったモンスターだし、そこまで飛びぬけて強いわけでもない。
「いざとなったら蛍が瞬殺してくれるなら、試しに戦ってみるのはアリだと思うが」
ちらりと蛍を見ると、
「お任せください」
彼女は特に気負うことなく微笑む。
「蛍がいると安心だね」
アインも微笑んだ。
……蛍がいれば大丈夫って思いすぎるのもよくない気がするが、今だとちょっと早すぎるかな。
まずは強くならないとはじまらない。
「よし、行くぞ」
自分を奮い立たせるためにも大きな声で仲間たちに指示を出す。
試練モンスターに挑むのだ。
自分に気合を入れないとな。
ギンギラウルフは入ってきた俺たちを見てゆっくりと立ち上がる。
グルルルと唸った視線は蛍を見ていた。
一番警戒すべき相手が蛍なのは何も間違っていない。
ただ、いつまでも彼女だけを警戒されていてはいけないと思うんだ。
「アインは攻撃を止めることに専念してくれ。俺とウルスラでチャンスをうかがう」
「分かった」
俺の指示にアインはうなずく。
実際のところ蛍抜きだと、アインがどれくらい敵の攻撃を食い止められるかで戦況は大きく変わる。
彼自身そのことを十分承知しているのだろう。
敵の攻撃を集中的に集めるスキルはないので彼の立ち回りが重要だ。
「やぁあ!」
アインは気合のスキルを発動させる。
攻撃力防御力がややアップするだけだが、ギンギラウルフは彼を狙って動き出す。
「うっ」
アインは巧みとはお世辞にも言えないが、ギンギラウルフの一撃を受け止めることに成功する。
すかさず俺が行動阻害用ポーションを投げつけて命中させた。
そこへウルスラが攻撃を仕かけるが、かすっただけでかわされてしまう。
「さすがに簡単にはいかねーな」
ウルスラが舌打ちをするが、
「いや、いい感触だ。基本的に今のくり返しでいこう」
と俺は主張する。
試練モンスターだから手強いのだが、あくまでも序盤の試練モンスターだ。
俺たちの戦闘スタイルを理解したからと言って、これを攻略するようなパターンを持ってはいない。
アイン、ウルスラという前衛二人を無視して直接俺を狙ってくる可能性にだけ気を付けていればいい。
俺はウルスラとアインの背後に回り、マヒポーションを投げる。
毒ポーションだと味方を区別してくれないからな。
対魔物に特化したものは今の俺じゃ作ることができない。
足りないのは錬成スキルレベルじゃなくて素材なんだが。
俺がポーションでデバフを入れ、ウルスラが投げナイフやナイフ切り付けでちくちく削り、アインが攻撃を受け止める。
ひたすらこれに徹した結果、無事にギンギラウルフを討伐できた。
「よっしゃー! 勝った!」
ガッツポーズをするウルスラ、
「僕たち、かなり強くなったんだね」
自分たちの成長をしみじみと実感して喜ぶアイン、そしてドロップアイテムを吟味する俺と見事に分かれる。
俺が戦闘に参加してたのでドロップ判定に影響が出るのを期待していた。
ギンギラウルフの牙が一つ、体毛が六つ、尻尾が二つか。
美味しいドロップに感謝しよう。
欲を言えば牙がもう一本落ちれば理想的だったんだが、仕方ないな。
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