第157話「真のリーダー②」

 逆に言えば何でも上達していくという反則っぽい結果だって狙える。

 大事なのはこいつ自身のやる気なんだよな。

 

「アインは焦らず少しずつ強くなっていけばいいと思うよ」


 と答えると困惑した表情を向けられる。


「どうもお前って何でもできるタイプな気がするんだよな。気のせいかもしれないが」


「同感ですね」


 蛍が賛同してくれた。


「まあエースケ殿ほど確信を抱いているわけではないですが、アイン殿は何でもソツなくこなしていらっしゃるように見受けられます。得がたい武器ですよ」


「そうかな」


 彼女に言われてアインは顔を動かす。


「僕としては誰にも負けないような武器がほしいんだけど……」


 迷っているようだった。

 難しいな、本人が納得していないと本当の意味で強くなれないんだから。


 少し悩んでから俺は言った。


「それはこのダンジョンを出てからにしよう」


「あ、そうだね」


 アインはすぐに自分の悩みを放り出して気持ちを切り替える。

 こういうところは立派な長所だと思うんだが、自覚はないんだろうなあ。

 

「なかなかいいチームね」

 

 シェラが俺にしか聞こえない声量で言った。

 うーん、これはどう解釈すればいいのかわからない。


 俺は期待されてるのか、それとも何らかの意図があるのか……。

 考えても読み切れないからひとまず後回しにするか。


 今大切なのは水蛇のほころを無事に乗り切ることだ。

 歩を進めるうちにオロオロチが二体出現する。


「たぶん今の間合いなら毒の射程圏外だ。攻撃手段は?」

 

「持ってねー」

 

 俺の言葉にウルスラが言葉で、アインが黙って首を横にふることで答えた。

 

「エースケ殿」


 蛍が言ったのは自分がやると言いたいからだろう。


 目でそれを制止して道具袋から投擲用ナイフを取り出し、オロオロチに投げつける。


 胴体を狙ったナイフはしっかり刺さり、かん高い悲鳴が響いた。


「今だ!」


 俺はウルスラとアインに声をかける。

 オロオロチは蛇のモンスターのわりに機動力や回避力はあまり高くない。


 遠くから先制でダメージを与え、距離を詰めてとどめを刺すという戦闘スタイルで対処できる。


 二人はすかさず距離を詰めて無事に仕留めてくれた。


「ヤバイモンスターかと思ったが、案外何とかなるもんだな」


 ウルスラがドロップした鱗を二枚拾いながら言った。


「だからここにしたんだよ。蛍の力なしじゃ進めない場所じゃ、俺たちの修行にはならないだろう?」


「その通りだね」


 アインはうんうんとうなずく。


 もっともそれだと蛍の修行になるのかって問題が出てくるが、少しの間は我慢してもらおう。


 彼女なら空き時間で自主鍛錬してさらに強くなってたりしそうだしな。

 ナイフを回収した後、また現れたオロオロチを同じ手順で撃破する。


 さらにオロオロチを四体撃破して、ドロップを回収し終えたところで俺はシェラに聞いた。


「ロングフォード先輩、敵の出現が偏ってる気がするんですが、こういう感じでもおかしくはないのですか?」


「おかしいね」


 シェラは即答し、ウルスラとアインがぎょっとする。

 蛍が眉を動かしただけなのは肝のすわり方が違うってことか。


「第一階層でオロオロチばかりが連続して出てくるのはおかしいよ。本当ならクラクラゲのほうが多いくらいだから」


 シェラの答えを聞いて俺は決めた。


「よし、撤退しよう」


「撤退? 早くねーか?」


 ウルスラが顔をしかめ、アインが困惑する。


「それがしは賛成です。敵の出現の分布が本来と変わっているということは、不測の事態が起こりうるということ。戻って学園に伝えるのが妥当ではないかと」


 蛍が俺に賛成してそう言った。


「……蛍と先輩はよくてもボクはやべーか」


「だね」


 ウルスラとアインは残念そうにしながらも賛成に回ってくれる。


「先輩、そういうわけでダンジョンから引き上げたいのですが」


「ええ」


 シェラはもちろんと認めてくれた。

 俺たちはくるりと方向転換してダッシュをする。


 幸いまだ一本道だったから帰り道を思い出す必要さえない。

 無事に外に出た時、息を切らせてるのは俺だけだった。


 わかっていたけど体力的には俺が一番下か。 


「驚いた。決断の早いリーダーと切り替えの早いメンバー。本当にいいチームね」


 シェラはうれしそうに微笑む。

 

「仲間の損害が大きくなる前に撤退を選んでこそ真のリーダー。シジマくんはその資質がありそうね」


 彼女はそう評価してくれた。

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