第158話「短所だけ見るのは間違い」

 シェラは褒めてくれたけど、喜んでばかりはいられない。

 せっかくの底上げ機会がいきなりつまずくことになったんだから。


「先輩はどう思いますか? モンスター発生率の変化を?」


 とりあえず意見を聞いておこうと思って問いを投げてみる。


「今は何とも言えないよ。自然な変化って可能性も残っているから、調べてみないとね」


 そうなんだよな。


 アルバテルってゲームの面倒な部分はモンスターの分布や発生率が自然な変化の場合と、敵の工作ってケースの二パターンあるところだ。


 本当なら今回は前者だと判断するんだが、てんこ森での例を考えると後者の可能性だって捨てられない。


「学園に戻ったら解散かな。先輩には報告してもらいたいし」


 早歩きで進みながら言った。


 本当なら一緒にどっかダンジョンもぐってほしいところだが、誰かの謀略が動きはじめてるなら、放置するのは危険だ。


 一刻も早く学園側に知らせておく必要がある。


「私はそうするけど、きみたちは探索を続けてもいいよ。学園のダンジョンあたりをね」


 とシェラは言った。


「そうします」


 許してもらえるならやるか。

 

「じゃあ私はこれで」


 シェラはそう言って別方向に歩き出す。


「ありがとうございました」


 出番なんてほぼなかったが一応礼を言っておこう。


 シェラを見送ってから視線を改めて仲間たちを見ると、彼らはまだやる気を失っていない。


「こうなったら仕方ねーよ。学園ダンジョンに行こーぜ」


 ウルスラがそう提案する。

 まあ学園のダンジョンでもレベル上げはできるからな。


 それに隠しエリアとかもあることはある。

 今の俺たちじゃ全滅するくらい難易度が激高いようなところが。


「そうだな。次の試練モンスターを倒すのを当面の目標にしてみるか」


 試練モンスターは一体だけじゃない。

 次の試練モンスターはゲーム通りだったら「バイバイコーン」のはずだ。


 強いことは強いがそれ以上に面倒くさいモンスターである。

 

「次の試練モンスター? 何階層にいるんだ、それ?」


「第十階層らしいと話を聞いた覚えがあります」


 ウルスラの問いに蛍が答えた。

 彼女は一人でもぐったり情報収集したりしていたんだろうな。


「ギンギラウルフは第九階層になると普通に遭遇するという恐ろしい話を聞いたことがあるな」


 と俺はさぐりを入れるためにも言った。


「それがしも聞きました。群れで出てくるわけではないようですが」


 蛍は神妙な顔で応じる。


「ギンギラウルフって試練モンスターじゃねーか。それが普通にうろついてるのかよ」


 ウルスラが嫌そうに顔をしかめた。

 気持ちはメチャクチャよくわかる。

 

「今日はそこまでは行かないさ。第五階層でギンギラウルフを一人で倒せるのを目標にしてみよう」


 そう提案した。

 第五階層までなら蛍一人に負担をかけてしまうってことはない。


 そしてギンギラウルフは戦闘人数を減らせば今の俺たちにはきついボスに変身する。


 いいことずくめになるのだ。

「素晴らしいアイデアですね。よい修行になりそうです」


 蛍は笑顔で賛成してくれるが、こいつだけは修行にならないんだよな。

 何か修行になるものを考えてみよう。


「と言っても今日は準備不足だから、蛍以外の四人で試してみて、無理だったら蛍に倒してもらうってのはどうだ?」


「まあそんくらい慎重のがいいよな」


 ウルスラはそう言い、アインも黙ってうなずいた。


「それがしも賛成です。無理をする必要なんてないですからね」


 そう、計画が狂ったからと言って焦って無理をする必要はない。

 学園ダンジョンにそのまま入り、戦闘開始だ。


「せっかくだから蛍なしだと第五階層まで行くのか、きついのか試してみる?」


 俺は蛍以外の二人に聞いてみた。

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