第156話「真のリーダー」

 俺が小さな建物の右脇にある灯篭に手を触れると、ゴゴゴという音とともに地面が揺れて建物の真ん前に地下への階段が出現した。


「そんなカラクリになっていたのですね」


 と蛍が驚き、


「よく調べているね」


 シェラが感心する。

 ゲームの時と入り方が変わってなくて何よりだった。


「ウルスラ」


 と俺は声をかける。


「おう」


 ウルスラはそれに応えてまず最初に中へと入った。


 水蛇のほこらはこれまでのダンジョンと違い、トラップが仕掛けられているはずである。


 現在のウルスラでも探知・解除できるタイプのものは多いだろう。

 ……あまり下の階層に行かなければ。


 それを承知しているからシェラだって止めないのだ。

 

「ここは何もねーぜ」


 ウルスラに言われて俺たちは中へと踏み込む。

 ダンジョンの左側に明かりはあり、水色の壁を照らしている。


 ひんやりとした空気が肌を刺激してきた。


「なるほど、空気が少し違いますね。危険な匂いもします」


 と蛍が言う。

 彼女は危険察知能力も高いようだな。

 

 理屈やスキルじゃなくて、修羅場をくぐって培われた勘なんだろうけど。


「どの辺がきついかわかるか?」


 一応聞いてみる。

 蛍はじっと前方を見据えていたが、やがて言った。


「詳細は申し上げにくいのですが、おそらく第三階層あたりから厳しくなると思います」


 彼女の勘は信用したほうがいい。

 実際にゲームでも水蛇のほこらは第三階層から攻略推奨レベルが跳ね上がったのだ。


「今日は第一階層だけにしよう。まだ死にたくないからな」


 俺が言うとウルスラが笑う。


「ゆるーい感じでいいねー。もっとも笑えねーレベルの敵がいるかもだが」

 

 シェラはくすっとしただけ何も言わなかった。

 ウルスラ、蛍、アインが前になって俺たちは探索を開始する。


「どんな敵が出てくるのか、エースケは知ってんのかよ?」


 ウルスラが前方を見たまま聞いてきた。


「第一階層はオロオロチと、クラクラクカゲだな」


 言ってもかまわないことなんで答える。


「オロオロチは蛇型モンスターで毒の息を吐く。クラクラクカゲは触手に触るとマヒを受ける。できるだけ遠くから仕留めたいな」


 と話すと蛍以外の二人がシェラを見た。


「シェラ先輩の助力をどれだけ受けられるかで、作戦は変わってきそうだね」


 アインが言う。

 状態異常系の敵にはなるべく近づきたくないもんな。


「ボクらも中距離攻撃の習得をそろそろ考えたほうがよさそーだな」


 ウルスラの発言にうなずいて同意する。

 それに気づいてほしいという理由もあって、このダンジョンを俺は選んだのだ。


「なるほど」


 とシェラがつぶやく。


「レベルアップのためってそういう意味もあったのね」

 

 どうやら彼女は俺の狙いに気づいたらしい。

 かなり勘が鋭いよな。


「さすがエースケ殿です」


 蛍は納得したように言う。


「ボクらが足りないものに気づけるよーにか。ありがたいけど、普通に言ってくれてもいいんだぜ?」


 ウルスラはからかうようにふり返る。

 

「いや、どう伝えれば上手く伝わるかと悩んでね。言葉だけだと失敗するかもって思ったんだ。そこまで俺は話し上手じゃないから」


 怒ってはいないようだったが、それでも彼女のせいじゃないとフォローはしておく。


「エースケより口が上手い奴なんて、ザラにはいねー気がするんだけどなぁ」


 ウルスラはそう言ったものの笑って許してくれた。


「僕に足りないものは何だろう? 足りないものが多い気がするけど」


 アインも怒らず真剣に考え込む。

 こいつは器用貧乏タイプって言ってもいいからなぁ。

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