第155話「『水蛇のほこら』への道②」
「準備までやってもらったら俺たち気まずいってレベルじゃなくなるから」
「エースケの言う通りだよね」
アインが苦笑気味に賛成する。
「ほんとだよ。ボクとアインは何のためにいんの? ってなっちまうぜ?」
ウルスラも同様だ。
「いいチームだけど、まだ役割分担の意識は薄いみたいね」
シェラもつられたように口元をゆるめるが、これはあまりいい評価じゃない。
「一応役割分担はできてるはずなんですけどね」
何でかたまにちぐはぐになってしまう気がする。
「特定の役割以外、一切何もしない模擬訓練をやってみるのはおススメよ」
「なるほどです」
シェラのおススメなら実際にやってみたほうがいいだろうな。
ただ、気になる点がある。
「役割が複数ある場合はどうすればいいですか? 一つの役割しかさせないのはかえってよくない方向に働くリスクもあるんじゃないですか?」
と聞いてみた。
「その懸念はもっともね」
シェラは納得したという顔でうなずく。
「だけどまず基本の戦い方を一つしっかり身につけたほうがいいよ」
「わかりました」
まずは基本を一つか、理解できる話だ。
「話はここまでにして水蛇のほこらに移動しようか。移動にちょっと時間がかかるしね」
とシェラは言う。
移動にそこまで時間がかかるわけじゃないけど、校門を出てすぐそこってわけにもいかないもんな。
「了解です。前は蛍とウルスラ、アインな」
シェラは魔法使いなので俺と同じく後衛がいい。
もっとも現段階じゃ蛍以外の全員より強いだろうけど。
「ええ」
蛍たちも異論はないとうなずく。
『水蛇のほこら』まで歩いていくが無駄口はない。
いつもならウルスラが軽口を言うところなんだが、彼女なりに気を遣っているのだろう。
「歩いて移動ってけっこう不便だよな」
「それは仕方ねーだろ。転移魔法は失われたって話なんだから」
ウルスラが歩きながら応じてくれる。
そうなんだよな。
この世界で転移魔法は大昔に失われてしまった魔法という位置づけだ。
まあどこにでも自由に転移できたら、セキュリティーとかどうするの? という話になってくるから仕方ないんだが。
魔法使いタイプの勇者なら条件を満たせば復活させることもできる。
「転移石ってアイテムがあればできなくはないけどな」
と俺はここで知識を公開した。
もちろんシェラに聞かせるためだ。
「転移石?」
他のみんなが不思議そうにする中でシェラだけは反応が違う。
「へえ、よく知ってるね」
彼女は感心したようにうっすらと微笑んだのだ。
「どういうアイテムか知ってるの?」
「一応は」
あんまり詳しく話すとヤブヘビになりかねないので慎重になる。
「聞きたいね」
シェラは食いついてくる、というよりは探りを入れてきてるようだ。
「転移石は登録した場所に移動できるアイテムってだけですね。転移魔法よりはずっと使い勝手が悪いけど、必要な魔力も少ないとか」
「なるほど」
シェラはじっと見た後小さくうなずく。
「一年で知ってること自体が驚異的だね。素晴らしいよ」
そして褒めてくれた。
「時々思うんだけど、エースケは何で知ってるんだろうね?」
「さあ?」
アインとウルスラの会話は聞こえないふりをする。
突っ込まれても説明のしようがない。
何とかごまかす手を考えたほうがいいんだろうなあ。
「あ、そこを右だな」
前を行く蛍たちに指示を出す。
みんなで右に曲がると石造りの階段があり、そこをのぼっていくと林の中にある神社の境内という雰囲気の場所が出現する。
前方に小さな祠がある以外は何もないさびれた場所だ。
「ここが『水蛇のほこら』か」
アインが緊張した声を出す。
「ええ。そうよ」
とシェラが答える。
ほこらと言っても神様とは特に関係ないって設定だったはずだ。
関係があるダンジョンなら、今このパーティーで入ると全滅が確定する。
成長しきった勇者パーティーレベルじゃないとリスクが異常に高い難関だ。
まあ今は言わなくてもいい知識だろう。
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