第153話「焦っても仕方ない」

「さすがに転校してくれないだろ?」


 と言うと蛍は申し訳なさそうに同意する。


「おそらくは。それがしの誘いに応じなかったくらいですから」


 蛍は皐月を一緒にここに通おうと誘ったが断わられたという背景があった。

 地元愛が強くて離れたがらない性格なのである。


 そのせいで出番があまりない……シャーマン自体は強くて便利なんだがなあ。

 

「じゃあとりあえず今は考えないほうがいいな。アイン、ウルスラは何かいいアイデアがあるか?」


 アインは黙って首を横に振る。


「うーん、エースケがいない時に知り合いになったやつがいるんだけど、そいつが錬金術師はきらいって言ってたんだよなー。それがなかったらエースケに話したんだけどさ」


 ウルスラが渋い顔で言ったのでおやっと思う。

 もしかしてヒーラーヒロイン、ポーラじゃないか?


「へえー、そんな子がいるのか。名前わかる?」


「たしかポーラだったと思うけど」


 ウルスラは答えてから困惑した目でこっちを見る。


「聞いてどうすんのさ? たぶんだけどエースケが頼んでも逆効果だぜ?」


「そりゃそうなんだがな」


 やっぱりポーラだったかという気持ちを隠しながら合いの手を入れた。

 ポーラはイベントを進めれば錬金術師へのわだかまりを捨てる展開があるので、ためしてみる価値はある。


「他にアテがないからな。ポーラって子は他にパーティー入ってるのか?」


「そこまではわかんない。ちょっと知り合っただけだし」


 ウルスラの回答に満足した。

 ポーラは主人公パーティーに入るまでは臨時パーティーしか組まないってのが基本的スタンスで、そこが変わってないならいいんだが。


「望み薄だが候補としておくかな」


「いいの?」


 アインが自信はあるのかと聞きたそうな顔で言った。


「だって他に候補なんてグルンヴァルト会長くらいしかいないんだぞ。ゼロじゃないだけマシじゃないか」


 フィーネを引き合いに出せばわかりやすいかと思ったのだが、予想は当たった。


「それはそうだね」


 アインは納得してくれたのだ。


「話からするといつも同じメンバーで固まってるだけではよくないように思えますが」


 蛍がとてももっとな指摘をする。


「それは正しいけど仲間同士コミュニケーションはとりたいし、連携も深めたいって事情があるのが悩ましいんだよな」


 勧誘するなら仲間のために使う時間が減ってしまう。

 仲間のために時間を割けば新しい仲間を勧誘するための時間が少なくなる。


 あっちを立てればこっちが立たずとはよく言ったもんだ。

 

「……焦りすぎはよくないか」


 どうせ時間はいくらあっても足りないんだから何かをあきらめるしかない。

 そう結論を出す。


「お諫めしたほうがよいかもしれないと思っていたのですが、ご自身でたどり着いてしまいましたね」


 蛍がそう言って微笑む。


「エースケがすげーのはそういうとこだよな。焦っても冷静な視点を忘れてねー」


 とウルスラが評価してアインがうなずく。


「買い被りすぎだ」


 否定しておいた。

 彼らの助言はありがたいからな。


 いつでもどんとこいだとアピールしておく。


「ポーラって子にそのうち接触することを考えつつ、レベルアップをやりつつロングフォード先輩の都合にあわせてダンジョンに行こう」


 言葉にしてみるとすっきりまとまってるようだが、やることはけっこう多いな。


「んー、じゃあボクがまずポーラの情報を集めようか。そのほうがエースケも動きやすいだろ?」


 いきなり接触を図るより、ウルスラにある程度下調べをしてもらったほうがいいのはたしかだ。


「よろしく頼む」


「おう」


 ウルスラはニカッと笑う。

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