第149話「どっちなんだろうな?②」

「エースケはどう思うよ?」


 ウルスラがストレートに聞いてきた。


「んー」


 どこまで言ってしまっていいのかと迷う。

 さすがに敵の名前を言い当てるのは異常すぎるとして、思惑を推測という形で話すのはいいだろうか。


 それくらいやらないとかなり苦しくなるもんな。

 

「何かの実験をしてたんじゃないか?」


「実験?」


 ウルスラとアインが聞き返し、蛍がすっと目を細める。


「たとえばだけど大量の虫を操る道具を手に入れたので、どこまで自分の言うことを聞くか試してみたとか」


「……胸くそわりーな、それ」


 ウルスラが吐き捨てるように言い、アインも顔をしかめた。

 敵キャラクターとして設定されてる連中には、そういう奴らもいるんだよなあ。

 

「僕らを攻撃する目的があって攻撃してきたわけじゃなくて、実験しているところにたまたま僕らがいた、みたいな感じなんだろうか?」


「俺の予想が当たっていればな」


 アインにそう答える。

 こんな推測が出されることも意に介していないんだろうな。


 ガルヴァは相手を過小評価する性格じゃないが、相手が作戦や対策を練ってきたほうが面白いというウォーモンガータイプだったはずだ。


 本人は意識をしているか知らないが、面白い戦いを楽しむために俺たちにヒントを与えたってところだろう。


「先生方が調査チームを送ったみたいだけど、何か手がかりは残ってないか期待できるかな?」


「さあな」


 アインの問いかけに俺は返答をにごす。

 どの程度こっちにヒントを与えるつもりがあるかなんて、さすがにそこまでは予想できない。


「何か消化不良になっちまったなー」


 ウルスラが後ろに体重をかけて椅子の背もたれを軋ませる。


「今後何かあるんだろうし、それに備えて動くって目標ができたと前向きに考えていこうぜ」


 俺は彼女をなぐさめるように言った。


「そうだな。こんな時でも落ち着いてて、うちのリーダー様は頼りになるな」


 ウルスラはようやくいつもの笑顔になる。


「ほんとだね。すべてが彼の計画通りだったりしないかな」


 アインが物騒なことを言う。


「んなわけないだろ」


「わかってる、ちょっとした冗談だよ」


 俺のつっこみに彼も笑った。

 冗談を言う余裕が戻ってきたのなら何よりである。

 

 ただ、俺は笑う気にはなれない。

 態度には出さないよう気をつけるが、めんどくさいことをしてくれたなと呪いたい気分だ。


 実習のつもりで送り出された難易度低めのダンジョンでこんなことが起こったら、ほぼ確実に生徒だけのダンジョン遠征は制限される。


 ダンジョン実習で生徒が死傷するのは学校も織り込み済みだろう。

 だが、訓練の結果としてそうなるのと、生徒たちに悪意と敵意を持ってそうな敵に攻撃を仕かけられるのとは別物だ。


 後者はわかっていれば防ぐ努力をするというのが学校側の責任ってやつだ。

 少なくとも底上げのため、蛍との差を縮めるために少々無茶をしようというプランは一度破棄したほうがいいだろうな。


 ここで学校側に目をつけられたらあとが厄介だし、フィーネとシェラの好感度を下げるのはもっとまずい。


 無理せず蛍との差を詰めるってたぶん現状で最も困難で面倒な作戦だな。

 ……いや待てよ?


 ダメでもともとで実行してみる価値がある作戦はあるな。

 よし、明日にでも提案してみるか。


 ほっとしたところでアインが声をかける。


「考えはまとまったかい?」


「ああ」


 待っててくれたんだろうなというのはわかっていた。

 

「とりあえず冒険をして難易度高めのダンジョンに行くのは取りやめの方向だ」


「でしょうな」


 すぐに理解したのは蛍とウルスラ、一瞬遅れてアインもうなずく。


「まあその前に一つだけ試してみる手があるんだが、上手くいく保証はない」


 と言っておいた。


「手がまだ残ってるのか?」


 ウルスラとアインは不思議そうな顔をする。

 蛍は数秒考えたのち気づいたらしい。


 頭がいいのか、それとも俺の考えが読まれているのかどっちなんだろうな?

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