第148話「どっちなんだろうな?」

 先生たちが応急手当をおこない、生徒たちが周囲を警戒する。

 単純に持久力は先生たちのほうが高いせいだ。


 じゃなかったらフィーネは治療に駆り出されるはずである。


「どうだ、蛍?」


「異常なし。不気味ですね」


 蛍の囁きにうなずいたが、俺の中ではある推測が完成していた。

 今回の首謀者がガルヴァだった場合、この後何も起こらない。


 教師たちにフィーネ・シェラ・蛍という面子はかなり強烈な戦力なのだ。

 かばわないといけない負傷者いるというハンデを活かすためには、敵も相当な戦力を投入しなければならない。


 他の敵はともかくガルヴァはそういうことはやらない性格だ。

 計略で戦力を分断して各個撃破していくのを好む。


 まあ負傷者を置いて敵の主力をおびき寄せるくらいはやるから名前も思いついたんだし、念のため警戒したいわけだが……。


 とりあえず何ともなさそうだな。

 警戒する俺たちを嘲笑っているかのように何も起こらず、森の外に出ることができた。


「風連坂、シジマ、ご苦労だった」


「どちらも一年とは思えない見事さだったな」


 思いがけない形で先生たちに評価されている。

 計算違いだがうれしい誤算だから別にいいか。


「さすがに疲れただろう。蛍、お前のおかげで無事だったよ。ありがとう」


「いえ、よい修行になりました」


 礼を言うと蛍は朗らかな笑顔を見せる。

 本気で思っているんだろうし、まだまだ余力たっぷりあるんだから大したもんだ。


 こいつに追いつこうとアインたちを鼓舞したものの、とうてい不可能な感じがハンパない。


 こいつ抜きでハイレベルなダンジョンにガンガンもぐるとか、そういう無茶が必要だろうな。


 今すぐは無理だけど、将来的にやるための準備は進めておこう。


「エースケ殿、このあとはどうなさるおつもりですか?」


 蛍に聞かれたので即答する。


「学園に戻ってアインたちと合流する」


 とりあえず報告してこれからのことを話し合っておいたほうがいいだろう。

 今回の事件は明らかに作為的なもので、偶然であるはずもない。


 蛍はこくりとうなずいて俺のあとをついてくる。

 困った時はとりあえず食堂からと思っていけば、アインとウルスラの二人を見つけることができた。


「お、ここにいたのか」


 と声をかけるとウルスラがニカッと笑う。


「まあな。ここにいんのが一番探しやすいと思ってよー」


「その通りだな」


 四人掛けのテーブルにいてくれたのも都合がいい。

 これもまたウルスラの読み通りだろう。


 俺はアインの横に、蛍はウルスラの横に座る。

 いつもの構図だ。


「で、どうだったんだ?」


 ウルスラはワクワクしているような顔で聞いてくる。

 波乱が好きな性格だったな、そう言えば。


「特に何もなかったよ。だからこれからヤバいかもしれないな」


 と言うと二人の顔色が変わる。


「何もなかった? あんなあとで? どういうこと?」


 首をかしげたアインに詳細を話す。


「俺たちの別のグループは負傷者がいたけど、全員が無事だった。応急手当をして連れて帰って来たけど、何も起こらなかったよ」


「何も起こらない? 全員無事だと?」


 ウルスラの顔が怖いほど真剣なものになった。

 そりゃ誰だってあんな目にあったあとにこんな話を聞かされたら、こうなるだろう。


「死人が出てないのはともかく、気を失った人たちが殺されずに放置されてたのはどう考えてもおかしいよね」


 アインもようやく事態が飲み込めたと低い声で言った。


「そこなんだよな」


 認識をすばやく共有できてとても助かる。

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