第147話「俺も行きます②」
先生たちが先頭を進み大量にわいて出る虫たちを殲滅していく。
アリの群れにバケツいっぱいの水をぶっかけてるような、そんな感覚にとらわれる。
先生たちが使ってるのは主に風の魔法、あるいは物理なんだが。
俺が来ることに本気で反対されなかったのは守り切れる自信があったからだろう。
さすが学園の戦闘教師だけあって、おそらく現時点ならフィーネより強いかもしれない。
この場合、学生の段階で教師と比較対象になるフィーネがおかしいのである。
蛍についてはさんざんおかしいと言ったので省略。
「さすがシジマくん、守る必要はなさそうね」
とフィーネが満足そうに微笑む。
隣でシェラも小さくうなずいていた。
「やばくなったら蛍に守ってもらいます」
俺としては本気だったんだが、二人は冗談だと受け止めたらしく愉快そうに笑う。
「こんな状況でも冗談を言える余裕があるあたり、やっぱりキミはすごいね」
シェラはそう言った。
「今年の一年おかしいわね」
フィーネが笑みながら評価すると、
「一番おかしかったのは一年の時のグルンヴァルトだ」
話を聞いていたらしい中年の教師がぼそっとツッコミを入れる。
話しながらこれなんだから、みんなたいがいバケモノだよな。
「こっちです」
シェラが立ち止まって左を指さしたので、そっちに向かう。
五分くらい走っていくと倒れている生徒たちがいた。
……外傷があるものの命に別状はなさそうで、だからこそ変だと直感する。
倒れて動けない人間なんて虫型モンスターにしてみれば、かっこうの獲物なのだ。
腹をすかしている肉食獣が美味そうな肉を目の前にしても食べてないって、どういう状況だと考えられるだろうか?
俺なら真っ先に罠を疑うし、他のメンバーも同様だった。
道具袋からアイテムをいつでも取り出せるようにかまえた俺を横目で見て、シェラとフィーネと教師は満足そうに顔になる。
さて、何が起こるんだろうか?
と思っていたが、しばらくたっても何も起こらない。
「シェラ」
フィーネの呼びかけに応じてシェラが魔法を使う。
「異常は特に感知できません」
彼女はそう言った。
「罠はないのか?」
教師も不思議がる。
この状況で罠がない?
何かを試したあと満足したから引き上げた、的な感じだな。
そういうことをする敵キャラは『ガルヴァ』がいたっけ。
でもあいつって虫使いじゃなくてゴーレム使いだぞ?
だが、何も起こらないのだからどうしようもない。
倒れている人間を手当てして回収するという作業がはじまる。
残念ながら例のくそメガネも無事だったらしい。
心の中でちっと舌打ちするくらいは許されるだろう。
「ならば急ぎ応急処置をして、その後迅速に撤退する」
教師の決断は当然だった。
罠がないなら助けるしかない。
そういう風に誘導されている懸念があろうとも、進むしかないわけだ。
俺だったら応急処置が終わったタイミングで仕かけるので、小声で蛍に言う。
「応急処置の最中と終わってからが一番危険だと思う」
「……なるほど!」
蛍はすぐにピンときたらしいので説明の手間が省けて助かる。
「それはありえるわね。シジマくん頭いいじゃない」
フィーネが真面目な顔のまま言い、シェラがこくりとうなずく。
二人に驚いた様子はないので似たようなことを考えてはいたんだな。
「……本当に大した一年だな」
先生たちは驚いていたが、俺に対して向けられたものだ。
ずいぶんと頼りになる面子に囲まれているな。
罠が仕掛けられていても何とかできそうだと安心する。
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