第146話「俺も行きます」
学園の入り口まで戻ってきたところでエドワードが告げる。
「トラブルがあったが全員無事でよかった。ここで解散する」
彼が言うと同時にフィーネを筆頭にした生徒会メンバーと男性教師が三名姿を見せた。
「エドワード、お前たちは無事だったか」
「はい」
四十代の金髪の教師の呼びかけにエドワードが応じる。
「もう一組から応援要請があったから急ぎ戦力を編成したのだ。知ってることがあれば教えてもらおう」
教師の表情は焦燥感に満ちていたが、冷静さを失っているわけじゃなさそうだ。
口ぶりもそうだが情報を持っていそうな俺たちとの会話を優先していることからも、それがわかる。
ここで俺たちをスルーして森に救助に向かうのは愚かな行為だろう。
情報を集めておけば『救援に行くメンバーが無事ですむ』可能性が高くなる。
すでに何かあったかもしれないメンバーを無理に助けに行くよりも、これ以上の被害の増加を防ぐことを優先した、好感が持てる考え方だ。
エドワードが話し終えるとフィーネがこっちを見てくる。
「シジマくん、そして風連坂さん。あなたたちも来ていただけたら百人力なのですが」
この発言に驚かなかったのはおそらく蛍一人だけだろう。
「会長!?」
「ロングフォード!?」
俺も教師も生徒会メンバーも驚いた。
ここで三年じゃなくて、二年でもなく俺と蛍かよ。
蛍はまあわからんでもない。
フィーネとシェラに匹敵する戦力だろうし、まだ大して疲れていないからな。
「蛍はともかく俺もですか?」
「ええ。何となくあなたがいてくれたほうがよさそうなのよね」
何となくってことはただの勘かよ。
女の勘はこわいって前世、母さんにさんざん思い知らされたからなぁ。
「ロングフォード、いったい何を言い出すんだ。一年を二人も入れるなんて!?」
教師が怒って荒い口調でフィーネを問い詰める。
「捜索をおこなうなら人手は多いほうがいいですから」
彼女はしれっと説明になってない答えを返す。
人手増やしたいなら一年じゃなくていいだろって話なんだよなあ。
「わかりました。俺も行きます。時間ももったいないので」
「エースケ殿が行くならそれがしも参りましょう」
蛍は即答した。
迷いが吹っ切れた感じだった。
「おい、お前たち、危険だぞ!?」
教師が怒鳴ってくるけどこっちの反応が普通だと思う。
どう考えても俺たちのほうが頭おかしい。
「危険は承知のうえです。ダメだったらすぐ逃げますから」
俺はそう言って、
「実際に逃げて戻ってきた彼らの言うことを信じてもいいのでは?」
フィーネがさらに言葉を重ねると先生たちはあきらめたようだった。
「わかった。だが、足手まといになったらその時点で帰ってもらう。さらに成績にもマイナスをつける。いいな?」
「ええ」
先生はすごんだが俺たちはひるんだりしない。
周囲を気にしなくても何とかなるだろうと思う。
それにどうにもいやな予感がしているんだよな。
胸騒ぎというか、何かイベントがはじまりかけているような、そんな感じだ。
現状主人公のアインがあんな感じだからそんな深刻なものじゃないと思いたいが、すでにゲームとズレはじめている。
俺もそうだけど蛍もゲームの時とはもはや比べちゃいけない勢いだ。
それを考えると楽観するのは危険だろうな。
駆け出す先生たちのあとをついていく。
蛍につき合うために鍛錬しておいてよかったと思うスピードだ。
ダンジョンに到着すると、先生たちは俺を見て驚く。
「一年生、それも錬金術師がついてこれるとは」
「風連坂さんに目を奪われがちですが、彼も充分規格外だと思います」
フィーネがそう話し、先生たちはうなずいた。
「グルンヴァルトレベルはめったにいないと思っていたんだが、今年の一年には期待できるかもしれん」
彼らの間で俺の評価が改まったのはいいんだが、フィーネ級と期待されるのはさすがにちょっとつらい。
追いつくには何年かはかかるんじゃないだろうか?
「恐れ入ります」
「自信家なのか謙虚なのかわからんな」
頭を下げると鼻を鳴らされた。
「さてここから探すわけだが……」
先生たちが森の入り口で奥をにらむと、シェラが言った。
「ここから南西に反応が二つ、微弱な反応が二つ、全員が人間です」
「さすがロングフォードだな」
先生たちは満足したので、たぶん彼女にやらせるつもりだったんだろうな。
面白くなさそうな顔をしている若い教師は、人命救助こそ最優先で生徒を鍛えてる場合じゃないって考えなんだろうか。
わりと修羅な世界ではあるはずなんだが、まだはじまってないからな。
はじまったあとならともかく、現状だと人情を重んじるのはわからんでもない。
「では突入する。遅れるなよロングフォード、シジマ」
心配されてるのは俺とシェラの二人だけなのか。
蛍のことは実は把握されているし、シェラは魔法使いだからってことかな?
シェラは今のところまったく疲れてない様子なので、少なくとも魔法使いの体力じゃないと言える。
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