第145話「蛍クラスがあとひとりいれば②」
「だが、できる範囲でやる」
と言うとウルスラは真剣な顔になって、
「やっぱお前って風連坂以上にやべーよな」
なんて言ってくる。
判断がおかしい点については一切言い訳できない。
「俺もやる。お前もやってくれると多少は素材回収ができるだろう」
「アインはどうする?」
ウルスラはちらりとアインを見る。
「あいつは誘わないほうがいい。慣れてない」
「お前は慣れてんのかよ……と思ったが、そういうや風連坂と二人でダンジョンもぐってたんだっけ?」
ウルスラが何かに気づいたという顔をした。
「まあな。勝算がまったくないわけじゃないってことだ」
そう言うと蛍がふり向く。
「相談は終わりましたか? 駆け抜けますよ?」
と予告する。
「あ、全力でって言ったけど、走るのを全力はナシの方向でな。俺は間違いなくついていけない」
「ふふふ、承知しております」
情けない宣言も彼女は愉快そうに笑った。
まあ俺の全力疾走も彼女は把握しているからな。
「イチャついてるように見えねーか?」
「しーっ」
ウルスラとアインは何かを言い合っていた。
蛍が駆け出すと同時に俺は小走りになりながら落ちている虫の死体のかけらを拾い、道具袋に入れていく。
最初はまったくこなせなかったが、今はそこそこできるようになる。
蛍もおそらく俺が何をやっているのかは承知していて、置き去りにならないように配慮してくれているだろう。
左右から虫の群れが現れるが、
「風刃・双星」
あっという間に蛍が斬り捨てる。
うん、蛍が戦えなくなる前に森の外に出てしまえばいいだけだな。
ちらりと背後を見ると二、三年は普通についてきていた。
基礎体力や探索慣れという項目じゃ俺たちよりも上なんだろうから当然だな。
「蛍、まだいけるか?」
敵を蹴散らしながら先頭を行く彼女に声をかける。
「まだ準備運動という感じですね」
彼女はおだやかに微笑んだ。
圧倒的な強さとギャップが恐ろしいくらいである。
つくづく味方でよかったと思い知らされながら走り続けた。
森を抜けたところで蛍はすぐに反転する。
俺も続いて反転すると、三年生が止まって虫たちと戦っていた。
「蛍、森以外に敵らしい気配は?」
「ありません」
よし、そういうことならあれらを倒し切ればいいだけだな。
「俺は先輩たちに加勢しようと思うけど、みんなはどうする?」
「お供しますよ。やっと体があったまってきたので」
蛍は味方でもおそろしいことを言い放つ。
さらにおそろしいのはまだ息が荒くなっていないということだろう。
こいつの体力は底なしなんじゃないかと思いたくなる。
「僕は行きたいけど、足手まといになるかも」
「ボクもだな。何で二人ともそんなピンピンしてんの?」
アインとウルスラはぜーぜー言いながらそう話す。
「蛍と一緒にダンジョンにもぐってたらいつの間にかこうなってた」
俺が答えると二人は信じられないという顔になる。
「前から思ってたけどよ、エースケもたいがいバケモノじゃね?」
「実は僕もそう思ってた」
なんて言ってる二人は置いて俺たちは森の中へ引き返す。
「ちょっと!?」
「どこに行くんだ!?」
すれ違った二年生は森の外に出たので、万が一の戦力として期待して大丈夫だろう。
道具袋から虫よけをいくつも取り出して、力いっぱい投げつける。
走りながらやるってかなりきついんだよな。
蛍とダンジョンもぐり続けてたらいつの間にか上手くできるようになってたが。
虫たちの動きが止まったところに先輩たちがいっせいに攻撃し、倒していく。
「馬鹿野郎、戻ってきたのか!」
エドワードが怒鳴りつけるけど、ここは無視しよう。
虫と戦っているだけに……なんて言ってもこっちの世界でも笑いを取れないんだよなあ。
先輩たちはまだまだ余裕がありそうだった。
数が多いだけでそんなに強いモンスターがいなかったこと、そして半分近くを蛍が一人で片づけたのが大きい。
せっかくなのでいくつか素材を拾っておく。
「お前、こんな時に」
エドワードはあきれたが、余裕がある状況だったから何も言われなかった。
「さあ森の外までもうすぐです」
と蛍が俺のまねをしながら先輩たちに言った。
「お前らのためにしんがりを引き受けたはずだったのに」
先輩たちは苦笑しながらも蛍のあとに続く。
全員無事に森を抜けることができた。
ここで黒幕が出てきてボス戦……とはならないようだ。
「このあとどうするんですか?」
予想はしているが聞いてみる。
「学園に報告する。おそらく生徒会を中心とした討伐チームが編成されるだろう」
エドワードの回答にだろうなと思う。
本来なら先生が出てくるところなんだが、今の生徒会はシェラにフィーネという大戦力が複数いる。
これに監督役の先生を一人をつければまず間違いないと思われるわけだ。
「……エースケ殿」
そこで蛍が真剣な声で俺に話しかけてくる。
「もう一組いたはずですが、彼らの気配が感じられません。まだ森の中にいるのでは?」
マジかよ……。
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