第139話「波状攻撃の前触れじゃなかったらいいな」

「シジマ、虫よけをまずまいてくれ。それからゴリアテと風連坂は専守防衛で頼む」


 とグレックは指示を出す。

 ずいぶんと慎重だが、予想外の出来事が起こったのだからまず守りってのはわからなくはない。


 四人分の虫よけポーションを散布する。

 正直虫の数があまりにも多いと効果はあまり期待できないと思う。


 理屈はよくわからんがゲームでそんな描写があったからな。

 二年はリプレ、三年はエドワードが散布している。


「くるぞ!」


 ウルスラが言うと同時に十を超える虫たちが姿を見せた。

 テントウムシやカブトムシを大きくしたような外見である。


 角や殻はいい素材になるのでできれば素材をとれる形で倒したいな。

 飛びかかってきたのはトンボを大きくしたような虫で、アインが小型の盾で牙を受け止めたところをウルスラがナイフで頭部を貫いて倒す。


 その隙に蛍がテントウムシとカブトムシみたいなやつらを四体あっという間に斬り伏せる。


 初期の予定のフォーメーションはとっくに崩れていた。


「何か三人だけでも大丈夫そうだな」


 グレックは緊張感が少し抜けたような声を出す。

 自分たちも参加しないとやばいと思ってたら、一年三人が予想以上に活躍したってことだろう。


 より正確に言えば蛍が圧倒的に強い。

 まあ力を出し惜しみしてピンチになるなんて間抜けな展開はごめんなので、俺から彼女に言うことはないが。


 このやり方だと俺がヒマなんだが、体力を温存しておこうか。

 今戦う必要ないのに無理して戦うなんてどう考えても悪手だ。


 ダンジョンの入り口付近でこれなら、おそらく奥に行けばもっとひどいことになる。


 この手の展開が起こった時、きついのは序盤だけなんて性格いいゲームじゃなかったしなあ。


 この世界でも似たようなもんだと思っていたほうがいいだろう。

 さて、虫たちは怯むことなく第二陣が襲ってくる。


 グレックが何かを言うより先に蛍が敵を斬り伏せていく。

 フォーメーションが崩れかけてるのでグレックの指示が来ないかなーと思っているが、何も言ってこない。


「蛍、出すぎだ。五歩さがってくれ」


 仕方なしに代わりに指示を出す。

 蛍は敵を瞬殺したあとすぐ五歩分後ろに飛んで調整するという、あきれた芸を披露してバランスをとる。


「ウルスラは三歩下がってくれ。俺のところががら空きになってる」


「おっと、わりー」


 ウルスラが俺の横に待機し、その前を蛍とアインで固める形が無難だ。


「あ、えっと……俺、役立たずじゃないか?」


 後ろから自信をなくしたらしいグレックの声が聞こえる。

 悪いが今はいちいち慰めてる余裕がない。


「だから言ったじゃない? あの四人はすごいって」


 冷めた声でリプレが言った。

 フォローする気がなさすぎるのが見なくても伝わってきておいおいと言いたくなる。


 せめてダンジョン探索が終わるまではもたせてくれないだろうか?

 一応敵は全部片付いたわけだが……。


「ちょっとそんな言い方ないでしょ」


 ジェシーがリプレに噛みつく。

 マジかよ、今ここで喧嘩でも始める気なのか。


 勘弁してくれよと思ってふり向いたら、


「止めてくれ。全部俺が悪い」


 グレックが大きな声を出して二人に割って入る。

 それでジェシーは我に返ったらしく小さく詫びた。


 ひどいな、ジェシーとリプレの二人は。

 まだ敵の包囲が残ってるのに喧嘩を売ったり買ったりするとはな。


 もしかしたら仲がよくないのかもしれんが、俺たちには関係ないしいい迷惑だ。

 同時に評価を下げさせてもらおう。


 アインと蛍は態度に出していないが、ウルスラからはかすかな失望を感じる。

 そっと彼女の肩を叩いてたしなめておく。


 すぐに修正したあたり、ウルスラはさすがだと思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る