第140話「波状攻撃の前触れじゃなかったらいいな②」
「先輩、次の指示をお願いします」
俺は二年たちの気まずい空気を無視して言った。
エドワードはこれに苦笑、残りの三年は目を丸くしている。
二年がしっかりした指揮官に育ってくれなきゃ、俺たちにしわ寄せくるリスクが高くなるんだよなぁ。
エドワードたちが何も言わないってことはまだ見捨ててないってことなんだろうし、ここは協力しておかないとな。
「あ、うん。ご苦労だった。俺たち二年が警戒に当たるからお前たちは少し休息してくれ」
とグレックから指示が来る。
なかなか悪くない判断だった。
一年に指示を出すのが二年の役割なんだが、一年だけを戦わすのは悪手だからな。
上級生に余裕があるうちに戦闘経験を積ませて休ませるというのはよい。
緊張を解いてリラックスしながら後ろにさがり、水を飲む。
代わりに二年が前に出ていくのをながめてるとエドワードが寄ってきた。
「やはりと言うかお前が一番すごいな」
小声でそんなことを言われる。
「どうして俺なんです? 蛍でしょう?」
すごいと言うかやばいのは誰が見ても明らかなはずだった。
「おいおい、とぼけるなよ」
エドワードは苦笑する。
「あの三人の特徴をよくつかんでいて的確な指示を出した。三人ともすぐに従ったあたり、相当な信頼を築いてる証じゃないか」
彼の分析は的確だったし、内緒話するような声量を維持していることから、彼こそが『分析担当』だと理解した。
簡単に言うと俺たちの行動を採点する係で、学校評価に強い影響を持つ存在である。
「分析お疲れ様です。やっぱり三年がやるんですね」
と切り返すとエドワードはにやりと笑う。
「お前なら気づくと思ったよ。だから話しかけたわけだが」
なるほど、俺は試されていたんだな。
「カマをかけられたというわけですか。ミスったかな」
とぼやくと、エドワードの笑みが深くなる。
「やはりお前はとびきりだな。こんなに早くそこまで気づいたのはロングフォードでも無理だったぞ」
シェラでも無理ってのは、端的に言えば今の二年全員よりも上って評価になったわけか。
「はぁ、ありがとうございます」
と言うとエドワードは初めて笑みを消し、観察するような目を向ける。
「いいのか? 隠していたわけじゃないのか?」
「いや、ばれたらばれたでメリット多いですから気にしてませんよ」
と肩をすくめる。
本音は少し違っていて、メリットのほうが多ければいいなと願望こみだ。
だけどエドワードに馬鹿正直に全部言う必要はないだろう。
「ははは、思ってた通りかなりしたたかな奴だな。頼もしい後輩だ」
「どうも」
さっきからちらちらこっちを見てる蛍の視線が少し鋭くなってきたところで、エドワードはさっと距離を取る。
「風連坂もかなり手ごわそうだからここらにしておくか」
たぶん先輩が俺に話しかけてきた時点で、蛍はだいたいのところは察しがついたと思うけどね。
俺が教えなくても別にいいか。
そして二年たちが前に出ている間は今のところ平和である。
他人に任せてると言ってもやばかったら蛍が反応するからな。
彼女の様子を見ているかぎり、近くに魔物たちはいないのだろう。
蛍はタイミングを見計らって俺の隣に立つ。
「何のお話をしていたのでしょう?」
俺にしか聞こえない声量で問いかけてくる。
心配されているのはわかるが、彼女が警戒するようなことでもない。
「俺にとって悪い話じゃないさ」
エドワードが持ってるツテを利用できるなら、可能性が広がったと言える。
そこまで優しく無かったらその時また考えればいい。
「それがしの考えすぎでしたか」
エドワードが俺の秘密を握って何かを言ってきたのかとでも気を回したんだろうか。
「心配してくれてありがとう」
「いえいえ」
小声でやりとりをしていると不意に蛍がけわしい視線を前に向ける。
これは休憩タイムは終わりかな?
波状攻撃の前触れじゃなかったらいいんだけどなぁ。
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