第132話「そろそろ計算に入れないほうがいいかも?」

 そりゃアインとウルスラがぎょっとするのは当然だ。

 平均レベルがせいぜい五か六のところにレベル六十くらいのやつがいるって意味になるんだから。

 

 予想はしていたけど、俺だって驚きは隠し切れない。

 ゲームで仲間になる時のスキルレベルはたしかどっちもⅤだったはずだが。


 ……やはりゲームの時とスキルレベルの上がり方が違うんだな。


 蛍のおかげで疑いが確信に変わったと言っていい。


「蛍は予想以上にすごいな。ⅣかⅤじゃないかと思っていたんだが」


「たしかに入学した時はⅤでしたね」


 軽口で言ったつもりだったが、蛍は目をみはった。


「何と言うか、こういうところでエースケ殿は本当にすごいですね」


「いや、まぐれ当たりだぞ」


 本当にⅤだったとは思っていなかったので、まぐれ当たり扱いでかまわないだろう。

 

「エースケ、たまに何でも知ってるんじゃないかって思う時があるよな。抜けてるところもあるけど」


「ハハハ」


 知ってるのはゲームの情報で覚えてる範囲だし、抜けてるところがあるのは単なる事実だ。


「抜けてるほうが多いと思うので、みんなの手助けが必要だ」


 そう言い返すと、アインとウルスラがしらっとした視線を向けてくる。


「手助けは大事ですね。それがしもみなさんの手助けがほしいですし」


 蛍は相槌を打ってくれて共感を示してくれたが、こいつの分はそろそろカウントしないほうがいいかもしれない。


「風連坂に手助けなんて必要なのかよ?」


 とウルスラが疑問を口にする。

 言いたいことはわからんでもないが、自分の存在意義を疑わなくても。


「必要だろ。蛍一人だと延々と戦えるわけがない」


 と俺は言う。

 蛍だって人間なので疲労は避けられない。


「休ませることができるだけでも仲間の意味はあるさ」


 他に価値があるのかと言われると、難しいんだよな。

 蛍にとって一番ありがたみがあるのはおそらくヒーラーで、次が魔法使いだろう。


 いくら蛍が万能に近いアタッカーだと言っても、遠距離攻撃と回復はできないからな。


 むしろそういう意味じゃフィーネのほうがやばいと言える。

 壁役でありながら火力も出せて回復も遠距離もいけるオールラウンダーだからだ。


 フィーネ、仲間に欲しいんだけどなぁ。

 理想編成というものがあるとすれば、フィーネと蛍は入ってくる。


 あとは魔法使いヒロインと錬金術ヒロインかな。

 思ってた以上に蛍が強いこととシェラがいるって考えれば、別に魔法使いヒロインはどっちでもいい気がしてきたが。


 条件はシェラよりある意味厄介だし、いなくても現状何とかなりそうだから無理に狙う必要はないだろう。


 条件は厳しいはずのシェラは今のところ順調なのがいい意味で計算違いだが。


「そうだね、それ以上の存在になれたらいいね」


 アインが弱気なようでいて前向きなことを言う。


「ハッ、世話になりっぱなしのままでいられるかってんだ」


 ウルスラは獰猛な笑みを浮かべ自分を鼓舞する。

 アインとウルスラはこういうところがいい。


 アインはちょっと卑屈だけど、それでも向上心を持っている。

 蛍にしてみれば二人の考えや態度は好ましいらしく、おだやかな顔でながめていた。


「追いつくって言ったって口で言うのはいいが、実際は簡単じゃねー。エースケは何かプラン持ってねーか?」


 ウルスラの視線が俺に向けられる。


「俺か?」


 疑問を浮かべると、


「おめーなら何かいいプランを持ってんじゃないかと期待できちゃうからな」


 悪びれることなくウルスラは笑う。

 さて、どうしたものか。


 本当ならここじゃ「そんなものはない」と白を切るのが一番だろう。

 ウルスラだって本気で期待してるわけじゃあるまい。


 だけど、あえてここで「ある」と言えばはたしてどうなるだろうか。

 ぶっちゃけリスクが高いだけでリターンは少ないだろうな。


「お前ら二人ならやってみなきゃわからないとは思う。可能性は低いけどな」


 と言ってみると、アインはぽかーんとする。


「マジかよ。冗談だったんだけどよ……」


 ウルスラも目を丸くしていた。

 やっぱり期待されてなかったな。


「エースケ殿はさすがですね。ずいぶんと長い目で練っていらっしゃる」


 蛍だけは気づいていましたという顔で言う。

 ……何か今の言い回しが気になるんだけど?


「蛍に匹敵する強さになれるって意味じゃないぞ。足手まといにならなくなる、くらいの感覚でいてほしい」


 念を押すと、


「ああ……それでも十分とんでもねーぜ?」


 ウルスラにはそう返される。

 まあ蛍の戦闘についていけるってのはそれだけのことだからな。

 

 本気を出した彼女についていくとなると、戦闘系のスキルがⅤになるのが最低条件だろうと予想はできる。


「一応聞かせてもらいたいな。僕らは何をすればいいのか」


 アインが真剣な顔で言った。

 自分の弱さを嘆いている彼にとっては、すがりたいんだろうな。


「言っておくが相当無茶だぞ」


 覚悟を求めると、


「覚悟はしてるよ」


 アインは苦笑した。


「無茶しねーでこのバケモンとの差が詰まるわけねーじゃん?」


 ウルスラはにやりと笑う。

 実に頼もしい反応である。

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