第133話「成功例があると説得力は違う」
「何をするのかって言うと、ちょっと難易度が高めのダンジョンに行くのさ。当然蛍も一緒にな」
蛍がいないとただの自殺行為になってしまう。
おんぶ抱っこはいやだからと言って間違ってはいけない。
「ギリギリの緊張感で成長を速めるということですか。昔、師範に似たようなことをやらされました」
蛍はなつかしそうに目を細める。
なるほど、俺が思いつくことはすでに実践済みか。
道理で強いわけだと納得する。
「風連坂もやったことあるような修行なら、効果はありそうだな」
ウルスラはそんな表現で認めた。
やっぱり成功した実例があるっていうのは説得力が違うよな。
蛍は参考にしていいのか正直迷うところだが、前例がないよりはマシだろう。
「うん、風連坂さんも一緒なら何とかなるかもしれないしね」
アインは慎重に答える。
リスクや実現性を冷静にしっかり考えられるのは彼の強みだろう。
「すまないが蛍、かまわないか?」
「かまいませんよ。それがしがお役に立てるなら喜んで」
蛍は二つ返事で引き受けてくれる。
もっともそれで話は終わりじゃない。
「ところでエースケ殿、具体的にどこに行こうというアイデアはあるのですか? エースケ殿のことですから何かあると思うのですが」
と蛍に聞かれる。
「まあな」
そう言ってうなずいてからみんなにそのダンジョンの名前を告げた。
「『水蛇のほこら』だよ」
「……名前は聞いたことあるなー」
とウルスラが言う。
アインは知らなかったようだが、蛍は「あそこか」という顔をする。
「行ってみないとわからないし、行ってみるのはアライアンスが終わったあとになるけどね。どうだろう?」
「まあいいんじゃないか? 第一階層に行ってみればよ」
ウルスラは乗り気な様子で答えた。
「ダメそうだったら引き返せばいいもんね」
アインも納得する。
本当にやばかったら引き返す前に全滅するだろうが、そんな無茶な難易度のところを選んだ覚えはない。
「まあ目標が一つ決まったところで話をアライアンスに戻そう」
と言うと三人はうなずいた。
あまり先のことに気を取られていてもよくないからな。
それにてんこ森で装備を整えたほうが楽をできる。
いちいち言わなくてもメンバーたちはすぐに意識を切り替えてくれて、リーダーとしてはありがたい。
メインキャラって物分かりが悪い問題児はあんまりいなかったな、そう言えば。
場合によってはトラブルメーカーになりうるタイプくらいだ。
おっと、俺もアライアンスに意識を戻そう。
「明日、アライアンスの参加メンバーがわかるそうだからみんなで教えてもらおうか」
「放課後、錬成部の前に集合でいいのか?」
ウルスラの問いにうなずく。
「ああ。発表って言っても参加メンバー全員が集まるのは当日らしい」
と俺が答えると、
「連携という点では大いに不安が残りますね」
蛍が難しい顔で言った。
まったくもって同感である。
「一年を鍛えつつ、上級生も鍛える側面があるっていうからな」
「ああ。後輩を守る難しさを実感させたり、連携なんてそんな簡単にできるもんじゃねーって体で教える感じか」
勘の悪くないウルスラがすぐに気づいたようだ。
「僕たちだけでもしっかりしていれば大丈夫かな?」
「そこはどうなるかな……」
アインの言葉にあいまいな返しをする。
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