第130話「まねされると生徒会が困る②」
少し早めに校門前に着いたが、すでにシェラを含めてみんなが揃っていた。
「お待たせしました」
「気にしなくていい」
とりあえずシェラに声をかけると、微笑が返ってくる。
何だかちょっと機嫌がよさそうだよな。
「で、リーダー、今回はどうすんの? 魔法使い様が増えたからもうちょっと冒険する?」
ウルスラが方針を確認してくる。
「その前になんだが、アライアンスに関する話がある」
そう言ってエドワードとの会話内容をみんなに聞かせた。
おそらくシェラはほとんど知ってただろうけど、今は俺たちの仲間だし方針を理解してもらうという意味がある。
「へー、じゃあその虫よけを作って当日に備えたらいいのか」
ウルスラはてんこ森と聞いてもけろっとしていた。
「虫がたくさんいるところかぁ……」
アインはいやそうな顔をしている。
こっちの反応が普通だと俺は思うが、顔には出さない。
「森の中だと少々めんどうになりますよね。まとめて燃やすのが手っ取り早いのに、燃やすわけにはいかないですから」
蛍はしれっとおそろしいことを言ってのける。
「一応言っておくが、水没も無理だからな?」
「わかっていますよ」
念を押した俺に蛍は笑顔を向けてきた。
「風もあまり大規模なものは使えないのですよね。森林を破壊してしまいますから」
彼女は残念そうにつけ足す。
ああ、そう言えばそうだったな。
彼女が全開でやったら何十本の樹木が切り倒されるかわかったもんじゃない。
伐採目的ならアリかもしれないが、今回のアライアンスでは禁止されてしまうだろう。
「じゃあ風連坂はアライアンスだとそこまで戦力にはならねーのかな?」
「強いことがアダになるなんてね」
ウルスラはともかく、アインはちょっとばかり残念そうだった。
同時に気遣う視線を蛍に向けるが、本人は気にしてない。
「集団相手に大技なしで立ち回るよい修行になりそうですね」
明るい表情で前向きに受け止めている。
「先輩たちのフォローがあるならめったなことはないと思うけどな」
下手すりゃトラウマを量産しちゃう案件だし、大丈夫だろう。
それはそれとして備えはしておきたい。
「なんて言いながら準備はするんだよね」
シェラはじっとこっちを見る。
「先輩たちを信頼することと、準備をサボることは別ですから」
「えらい」
シェラは短く言った。
そして疲れた顔をする。
「キミみたいな子がもっといれば、私たちはもっと楽ができるんだけど」
これは愚痴かな。
どうやらダメなやつは俺が思ってる以上にいっぱいいるらしい。
……この学園、大丈夫かな?
なんて不安が頭をよぎったのは当然のことだった。
そんな俺の表情を読みとったのか、
「普通は一年で『矯正』される。ある程度はね」
とシェラが言う。
なるほど、そういうシステムになってるのか。
いいところの生まれが多いんだから、世間知らずでワガママなやつも少なくないんだろう。
そいつらを何とかするのも学園の仕事のうちってわけだ。
「キミと風連坂は別の意味で必要かもしれないけどね」
なんてシェラは言う。
微笑みながらだったので冗談だとはすぐにわかってよかった。
「???」
蛍はまったくわからなかったらしい。
彼女のストイックな向上心は、一般的な感覚の持ち主たちにはとうてい理解できないことなんだが。
指摘しないほうがいいのかなぁ?
少なくとも今この場ではやめておこう。
「とりあえず今日は虫よけを作るための素材を集めたい。今日入れて六日あるから、ある程度はいけるだろう」
と言うと、
「がっつりもぐれば何とかなるだろね」
アインが答える。
蛍がシェラに聞いた。
「答えてよいならお答えください。虫よけはどの程度必要になるのでしょう?」
「……他の誰かに聞いても同じだから答える」
シェラはそう前置きして教えてくれる。
「アライアンスの想定探索時間は五時間。シジマくんが持ってるレシピの虫よけは一回一時間前後効果が持続する」
「なるほど」
一人あたり五回、そして四人分とすれば二十個だな。
「探索時間が予想より伸びることを想定して、三十個くらい作っておけばいいかな。ところでロングフォード先輩はどうされるのですか?」
俺たちの仲間として参戦するのか、本来のパーティーで参加するのか。
あるいは参加しないのか。
「私は参加しないしこのパーティーにも加わらない」
とシェラは答える。
彼女が参加しないとなると、四人分を用意するだけでいいな。
彼女は自前で用意できるだろうけど、こういう場合は俺たちで用意するべきだし。
「わかりました。残念ですが、ズルはよくないって感じですかね」
「だいたいそういう感じ」
俺がおどけて言ったことをシェラは否定しなかった。
まあその手があったかとまねするやつが出てきたらたぶん困るしな。
俺じゃなくて生徒会が。
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