第128話「レシピは教えてもらえても素材はもらえない」

「何時ぐらいから再開するの?」


 シェラは当然の問いを放つ。


「集めたドロップを一度錬成したいので一四三〇くらいが妥当かなと」

 

 俺はそう言って仲間たちの顔を順番に見た。

 誰も反対しないのでシェラもうなずく。


「わかった。じゃあ一四三〇に校門前に待ち合わせね」


 彼女が去ったところで俺は仲間たちにたずねる。


「お前たちはどうする?」


 俺が錬成してる間、三人は手持ち無沙汰になってしまう。

 今のところこれが俺たちのパーティーの弱点だな。


「せっかくだから特訓でもしてようかな」


「いいな、風連坂さえよければだけど」


 アインの提案にウルスラが乗っかり、二人でちらりと蛍を見る。

 

「かまいませんよ。お付き合いしましょう」


 蛍はにこやかに応じた。


「おっ、二人が蛍の特訓を受けるのか。置いていかれないか心配だな」


 ちょっと本音を混ぜて言う。


「よく言うよ」


 ウルスラは笑った。


「今のところ僕とウルスラが遅れてるよね」


 細かく言えばそうだろうなと思う。

 蛍も訂正はしなかった。


「だからちょっとずつでも差を詰めていきてーんだよ」


 ウルスラが決意をにじませる。


「わかった。じゃああとでな」


 彼らの決定に水を差してはいけない。

 そう判断してここで一度別れる。


 錬成スキルをⅤまであげたら俺も特訓に参加しようかな。

 錬金術師は戦闘で大して役に立たなくてもいいんだけど、気持ちの問題がある。


 錬成を終えたところでエドワードが顔を出した。


「おお、ちょうどいいところにいた」


 彼はうれしそうに言う。

 その表情と言い方から用件は察することができた。


「アライアンスについて話が進んだんですか?」


「その通りだ。シジマは優秀だな。話が速くて助かるよ」


 エドワードはニコニコしている。

 かなりの上機嫌だな。


 理想的な結果になったんだろうか。


「日程は七日後、〇九〇〇に校門前に集合。場所はてんこ森だ」


「てんこ森ですか」


 エドワードの言葉に俺は微妙な声を出してしまう。

 てんこ森は素材がてんこ盛りだが、虫系のモンスターの数がてんこ盛りというやっかいなダンジョンだ。


 スタッフのネーミングセンスがおやじくさいのは今さらだからあきらめるとして、虫系が苦手なやつにとっては地獄だろう。


 うちのパーティーメンバーは大丈夫だろうか?

 ゲームの設定や情報的には問題ないはずだが、念のためたしかめておくか。


「その反応をすると、ある程度の知識は持ってるんだな?」


 エドワードが観察するような目を向けてくる。

 普通の一年はどういうところか知らないんだろうな。


 虫が苦手なやつが無邪気に喜んだとすると、イメージしただけでかわいそうになる。


「ええ。虫が多いんですよね?」


 直接的に切り込むと苦笑された。


「否定はしない」


 と前置きをしてから、エドワードは真剣な顔になる。


「だがメリットも多いぞ。虫は硬い殻、鋭い牙、いやらしい毒を持っている。お前たち一年が手に入れたら大幅な戦力アップになるはずだ」


 まったくもってその通りだった。

 もっともいい素材をゲットするためには、たいていの虫の弱点をつける火属性攻撃は使えないという制約があるんだが。


「なるほどです。もっとも俺たちだけじゃ無理でしょうね」


 火属性攻撃がありなら蛍が何とかしてくれるだろうが、なしだとさすがの蛍も厳しいだろう。


 自分一人だけなら危なげなく立ち回れるとしても、俺たちのフォローまでできるかどうか。


 ……風光一刀流の本領は文字通り風と光のはずだから、何とかしてしまうかもしれないが。


 こっちの世界の蛍を見てるとありえないとは言い切れない。


「一応虫よけシリーズのレシピならあるが、作ってみるか?」


 こっちを見ながらエドワードが聞いてくる。

 

「え、いいんですか?」


 これは俺にとっては意外だった。

 この手の便宜はもうちょっと部に貢献してからだと思っていた。


「ああ、お前の貢献度はなかなかだし、これからも期待できる。ならば先払いしてしまってもいいだろう」


 エドワードはそう説明する。

 なるほど、試練モンスターを倒したりリバーシを作ったことで期待度が高まっていたわけか。


 これからも似たようなことを実現できるなら、たしかに惜しくはない。

 彼の説明は納得できるものだったのでありがたくちょうだいする。


「ありがとうございます。教えていただきます」


 虫よけシリーズの入手は本来もっとあとだし、てんこ森に挑戦するのはそれからだと思っていたからなぁ。


「ああ。ただ、素材は充分あるとは言えない。そこは自分で何とかしてくれよ?」


 とエドワードは笑う。

 これは理不尽でも何でもないのでうなずいておいた。

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