第124話「地下洞窟に行ってみよう②」

 時間が来るまで自室に戻ってのんびりと過ごし、十分くらい前に寮の前に行くともうみんな揃っていた。


「俺が最後だったのか……ごめん」


 てっきり最後はウルスラになると思っていたんだけどな。

 

「いえ、まだ十分前ですよ」


 蛍が笑顔で気にするなと言う。


「とは言え、最後がリーダーだなんて微妙にしまらねーな」


 シシシとウルスラが笑いながらからかってくる。


「同感だな。反省している」


 真面目腐って言うと、ウルスラは笑みを消す。


「お、おう。本気で言ってるわけじゃねーぞ? 気にすんなよ?」


 心配そうに上目遣いでなぐさめてくれる。

 言葉使いや印象とは違い、けっこう優しい少女だとわかる瞬間だった。


「ああ、わかってるよ」


 打って変わってにっこりして見せると、彼女は一瞬ぽかんとする。


「気にするふりをしてただけなんだね」


 アインがやれやれとため息をつく。


「どうせそんなことだろうとは思ったよ」

 

 俺のことをよく理解してそうな表情で言う。

 否定はできないのでニヤニヤしておく。


「エースケ殿はたくましくも柔軟なお方ですから」


 なんて蛍は言ったが、これは彼女なりのフォローなんだろうか。

 ちょっと違う気がするが好意には何も言わないほうがいいだろう。

 

「ふふ、その通りだよね」


 アインは笑いながら肯定する。

 あれっ、予想したのとは違う展開だ?


 てっきりからかわれるかと思ったのに。

 だが、いちいちそう持っていくこともないだろう。


「あいさつはそろそろ終わりでいいかな?」


 と話をふってみると、みんなの表情が雑談モードからダンジョンモードへと切り替わる。


 この速さはとても重要だし、仲間として安心できるな。


「初めてのダンジョンだから慎重にいこう。もっとも、聞いた話によれば難易度はそこまでじゃないが」


 聞いた話というか、ゲームの知識なんだが。

 地下洞窟は敵のレベルはややあがるが、トラップなどのレベルは据え置きだ。


 普通に進めていくなら二番目のダンジョンってなるからだろうな。


「そうですね。油断なくいきましょう」


 蛍が答え、残り二名はこくりとうなずく。

 門を出て右に曲がり、一キロほど歩いて左に曲がり、まっすぐ行ったその先だ。


 誰もいないということはなく、四十代くらいのおじさんが立っている。


「見かけない顔だな。もしかして一年か?」


 なんて言うが、一年の証のネクタイやリボンを見てるので何も知らないとは思わないほうがいい。


「はい、そうです」


 俺が言うと困った顔になる。


「一年が来るにはちょっとばかし早いんじゃないか?」


 そう言われるのはわからないでもない。

 おそらく想定されている速度より、一か月くらいは早いだろうからな。


「ご心配なく。狼の試練モンスターは倒してきましたから」


 と言うとおじさんの顔色が変わる。

 単に試練モンスターを倒したと言うだけじゃ、はったりか何かだと思われただろう。


 だが、狼のと言ったことで見て戦ったというアピールになる。

 先輩とかかから聞き出したという可能性も残ってるが、そこまでは追及されない。


 ザルと言えばザルなチェックなんだけど、そこまで考えが回るなら通してもかまわないっていう判断されてる可能性もあるかな?


 練りこまれているようでいて雑なところがけっこうあったからな、あのゲーム。


「へえ、そうなのか。まあ試練モンスターに勝てるなら大丈夫だろ」

 

 おじさんはそう言って通してくれる。

 地下洞窟の途中までは試練モンスターよりは弱いもんな。


 とりあえずまあ通してもらえたんだからケチをつけるのはやめておこう。

 チェックシステムが厳重になったら一気にめんどうになる。


 新しいダンジョンに行くために道具袋はあけておきたいし、だからと言って別にいらない装備をしていったりするのもな。


 地下洞窟の入り口はそのまま進んだ先の、大きな岩のようなところにある。

 人工的に作られた印象が強い見た目だ。


「ここがそうか」


 ウルスラは特に感情がこもってない顔で言う。


「いよいよだね」


 アインは緊張を隠しきれてない声でつぶやく。


「それがしにお任せを」


 蛍は気負わずに微笑んでいる。

 まあモンスターなら蛍がいるかぎり大丈夫だから俺も心配してない。

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