第125話「後で謝っておこう」

  地下洞窟は壁と天井はゴツゴツしているが、床はきれいに舗装されている。

 学園の手が入っているんだろうな。


 天然ものと比べたらハードルが下がるのも無理はない。

 というか下がるように調整されてるってわけだ。


「ここもあかりはあるのか。てことは人工ものだな」


 とウルスラが開口一番に言う。

 まあ判断材料にしやすいよな、あかりが用意されてるって。


 天然ものは用意されてないか、罠かの二択と言っても過言じゃないからなぁ。


「まあ今の戦力と装備で天然ダンジョンはこわいからな。蛍だけしか生還できないなんてことになりかねない」


 きっぱり言うと誰も驚かなかった。


「だよね」


「否定はできねーな、悔しいけどよ」


 アインもウルスラも暗くならずに受け止める。

 彼らにとって蛍との力の差は恥ずかしいことじゃないのだ。


「なるべくみなさんを助けるように努力する所存ですが……」


 蛍はそう言ったものの、全員を必ず助けるなんて言わない。

 彼女はできもしないことを無責任に口にしないのだった。


「いいよ。無理しないほうが大事だ。危ないと思ったらそう言ってくれたほうがありがたい」


「はい、承りました」


 俺の発言ににこやかに応じる蛍の心理は読みにくい。

 危険なことをするはずがないと信用してもらってるのか、いざという時はどこまでもついてくるつもりなのか。


 後者だと誤解しそうになっちゃう瞬間があるけど、たぶん前者なんだよな。

 

「ウルスラも頼むぜ」


 と言えば、


「頼まれたって無理なんてしねーよ。ボクは自分の命が一番大切だ」


 真顔で切り返される。

 うん、そうだろうな。


 ウルスラは主人公に攻略されるまでの間は、自分が一番大切だってことあるごとに公言するようなキャラなんだもんな。


「それくらいのほうがいいな」


 と言うと彼女は目を丸くする。


「やっぱしエースケって変わってんな。普通、うそでもいいから仲間は大切だって言うべきだ、なんて言われんのにさ」


「きれいごと並べても死ぬ時は死ぬんだよなぁ」

 

 正論なんて命の危機には何の役も立たない。


「ハハハ、そりゃそうだ」


 ウルスラは腹を抱えて笑い出す。

 どうやら彼女のツボをクリティカルに刺激したらしい。


「身もふたもない……」


 アインはちょっと悲しそうだった。

 否定しないあたり彼も現実をよくわかってると思うべきだな。


 ダンジョンもぐる前にうだうだやってるのに、何も言ってこない蛍もまた現実の残酷さをよく知っているからだろう。


 この手のコミュニケーションはしっかりとっておいたほうが、長い目で見れば絶対にいいのだ。


「優先事項を確認できたところで行ってみようか。とりあえず第二階層にたどり着くのが午前中の目標な」


 俺はあえて低い目標を提示する。

 大丈夫だと思っていてもいきなり高い目標を設定するのは避けたい。


「安全第一かよ、それでいいぜ」


 ウルスラは笑顔で納得する。


「まあ未知のダンジョンですしね」

 

 蛍も異論はないようで、アインも小さくうなずく。

 四人でいつもの隊列になって進みはじめる。


 不意打ちしてくるようなモンスターはいないはずだが、油断はできない。

 

「右から敵の気配が二つです」


 蛍が言う。


「おっと」


 ウルスラが気まずそうな声を出す。


「そろそろ役割分担も考えなきゃな。次はウルスラがやってくれ。交代で頼む」


「承りました」


「あいよー、それが無難かな」


 蛍とウルスラはひとまず納得してくれる。

 ダンジョンに入る前に指示を出してなかった俺のミスだけど、誰も責めなかった。


 あとで謝っておこう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る