第123話「地下洞窟に行ってみよう」

 鍛錬ダンジョンから戻ってウルスラの装備を整えたので、地下洞窟に挑戦する準備は完了したと言えるだろう。


「たぶんだけどアライアンスはもうちょっとかかるだろうから、先に地下洞窟に行っておこうか」


 錬成部の前でメンバーにそう提案する。


「ま、いつになるのかわかんねーってことだし、それだったら待ってる間に何かしてたほうが絶対にいいよな」


 ウルスラが最初に賛成した。


「同感です。いただいてる情報が少ないのですし、配慮をしすぎる必要もないかと存じます」


 と蛍も同調する。


「僕にも異論はないよ」


 アインもそう言った。


「今日これからだと微妙だな」


 錬成部にある時計を見た段階で一七〇〇を回っていたはずである。

 移動時間を考えると地下洞窟にもぐる余裕はないだろう。


 無理するリスクを冒す理由もないしな。


「明日でいいじゃんか。ちょうど学園は休みだし」


 とウルスラに指摘されてようやく気づく。


「そう言えばそうだったな」


 すっかり忘れていたと手を叩くと、蛍を除いた二人に笑われる。


「おいおい、しっかりしてくれよ?」


「エースケ、わりとそういうところがあるよね」


 ウルスラとアインとは違い、蛍は神妙な顔つきだった。


「それがしも失念していました。日付感覚とは案外忘れるものですね」


「おいおい」


 彼女の言葉にウルスラがあきれる。


「休みが長けりゃそういうこともあるだろうが、授業があるんだぜ? しっかりしてくれよ、二人とも」


 ウルスラの言い分はもっともだと思う。

 決まったスケジュールで動いてるのにわからなくなるのはちょっとまずいかもしれない。


 蛍と二人で顔を見合わせる。


「似た者カップルかもしれないね」


 アインが小声でウルスラに話しかけたが、今のは聞こえたぞ。

 じろっと彼をにらむとごまかし笑いで流された。


「そうにらむなよ。似た者どうしなのは事実じゃねえか」


 ウルスラがニヤニヤしながら言い返す。

 まるでアインをかばったような展開である。

 

 表情からしてたぶん本人は無意識なんだろうけど。


「まるでアインをかばうような発言だな、ウルスラ」


 ここはつっついてやろうと思って発言する。


「……はあ?」


 不意打ちを食らった顔をして、ウルスラはすっとんきょうな声を出す。


「ちょっ!?」


 彼女はそこまでじゃなかったが、アインは大いにあわてる。


「な、なんてことを言うんだよ!?」


 正直ここまで動揺するとは思わなかったなと見ていると、蛍が人の悪い顔を作って言った。


「おや、ゴリアテ殿には似たようなことを言われた記憶がありますが?」


 ここぞとばかりにプレッシャーをかける。


「うっ……」


 アインはひるんで黙ってしまう。

 自分がしてきたことを棚にあげるほど、あつかましい態度はとれないようだ。


「はは、軟弱だな、アインは」


 ウルスラは完全に他人事という態度で腹を抱えて笑う。


「おや、ノヴァク殿?」


 蛍に見つめられるとウルスラはそっぽを向いて口笛を吹く。

 微妙に上手じゃないあたりがゲームの時とそっくりだった。


 蛍を目で制止して言った。


「じゃあ明日、〇九三〇に寮の前で待ち合わせをしようか。遅れないでくれよ?」


「りょーかい」


 元気のいい返事をしたのはウルスラで、残りの二人はうなずいただけである。

 手を振るウルスラに手を振り返して俺とアインは男子寮の中に入った。



 翌日、〇七三〇に朝食を食べたがアインとは会わなかった。

 あいつとは案外生活リズムが一致しないんだよな。


 おそらくだけどもう少し早いんだろう。

 主人公は〇七〇〇前に食べるか、〇八三〇以降になるかって場合が多い。


 アインの性格から推測するなら前者じゃないかな?

 たぶん蛍も同じタイプでウルスラは後者だと思う。


 根拠はあるとは言えないけどな。

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