第122話「仲がいい証拠」

「まあいい。とりあえずウルスラには働いてもらって、その報酬をもって次に行くって計画だ」


「身もふたもあったもんじゃねーな」


 ストレートに言えばウルスラは苦笑した。

 表情的に怒ってはいない。


 ヒヤッとしていたアインもすぐに安どの表情に変わる。


「だけどそれでいいぜ。いつまでもお荷物でいたくねーし、ボクの心情を汲んだうえでのアイデアなんだ。これで断るほどバカでも無謀でもねーよ」


 彼女はそう言ってアインの肩をバシッと叩く。


「いたっ、何で僕は叩かれたの?」


 彼は当然のごとく抗議をする。


「何か失礼なことを考えてたろ?」


 ウルスラはじろっと彼を見た。


「そうでもないと思うなぁ」


 アインはぼんやりと言う。


「とにかく、放課後は鍛錬ダンジョン前に来てくれ」


 強引に二人の間に割り込む。

 

「ういーっす」


 ウルスラは気のない返事をする。


「わかったよ」


 アインは彼女への言葉を飲み込んでうなずいた。


「仲いいですよね、この二人」


 と蛍が言うと、


「えー?」


「そりゃないだろ?」


 二人とも不満そうな声を出す。

 

「たしかに息はぴったりだな」


 と俺は言った。

 二人は顔を見合わせるが、不本意そうである。


 うーん、仲良くなってきてると思うんだが、先は長いかなあ。

 俺が勝手に思ってるだけだし。


「貴殿らもわりと好き勝手言ってましたよね?」


 蛍は笑顔で言うが、静かなプレッシャーを感じる。


「そ、そうだね」


「悪かったよ」


 アインとウルスラがひるんで詫びた。

 これはわりと珍しい展開じゃないだろうか?


 蛍が誰かをとがめるのも、ウルスラが誰かに謝るのもこっちの世界だと初めて見た気すらする。


 この中で一番迫力を出せるのは蛍か。

 やっぱりなという感想しかわいてこない。


「ウルスラの装備だけど、どれくらい整えるの?」


 アインが空気を何とかしようとするかのように聞いてくる。


「全部だよ。余裕があれば俺たちの分も見直しかな」


 たぶんそこまでする必要はないが。

 

「それがしはけっこうですね。まだ必要を感じてません」


 蛍が言った。


「蛍が装備の見直しが必要になるのはいつになるのやら……」


 俺は苦笑する。

 ゲームでも一年の時は初期装備だけで何とかしてしまうくらい強かったな。


 もっとも他キャラとの差が出るので、結局装備は変更していたけど。


「当分先なんだろうな。経済的な女でよかったな、リーダー?」


 ウルスラがひひひと人の悪い笑い方をする。


「それがしは安い女じゃないですよ?」


 と蛍が言うが、彼女は笑いをこらえてるのがわかった。


「蛍は稼いでくれるので、経済的とか気にしなくてもいいけどな」


 せっかくなので冗談で応じる。


「一番稼いでるのエースケでしょ」


 アインがあきれた顔になった。


「何言ってんだこのリーダー? あんたがナンバーワンだろ?」


「エースケ殿? 今のは正直ズレてると思いますよ?」


 ウルスラが白けた顔で言い、蛍もが彼らに同調する。


「あれ……蛍までも?」


 彼女が味方してくれないなら、俺がまずかったのかもしれない。

 それだけ彼女のことは信用しているので反省しよう。


「どうも稼ぎ頭です……何かいやみっぽくないか、これ?」


 自分で言ってみて首をかしげる。


「いやなやつみたいだな」


 ウルスラが顔をしかめた。


「うん、エースケらしくないよ」


 アインが苦笑する。


「さりげなく自負するくらいならそれがしは好ましいですけどね」


 蛍はたしなめてるのか好意的なのか難しいことを言う。


「よしいこう、次のステップへ」


 何回目だろう、話を戻すのは。

 そんなことをふと思った。

 

 ことあるごとに話が脱線するのは仲がいい証だからうれしいけどね。

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