第121話「そんないい話だったか?」
「簡単に言うとだ、そろそろ鍛錬ダンジョンからの卒業を考えたい」
学園の食堂に座るやいなや、俺は言い放つ。
驚かなかったのは蛍一人で、残り二人はじっと俺の目を凝視する。
「いきなりすぎない?」
アインは落ち着こうとしてるのがわかる口調で言った。
「今度はどういう狙いがあんだよ? 根拠もなくムチャクチャ言い出したわけじゃねーだろ?」
「鍛錬ダンジョンって名前の通り練習用だから、長い目で見ればおいしい稼ぎ場とは言えないんだ」
俺はウルスラの目を見ながらきっぱりと答える。
「……よそに行ける力さえついたらそっちに移ったほうが効率的だって言ってんのか、なるほどな。そりゃそうだ」
ウルスラの瞳には理解の光が宿った。
「賛成してくれるか?」
とたずねると、彼女はこくりとうなずく。
「おう。合理的な判断だと思うぜ。問題はどこのダンジョンになら行けるようになんの? てところなんだけどよ」
もっとも手放しで賛成してくれるわけじゃないらしい。
当然の判断だが。
「そうだね。どこに行こうとか、アイデアはあるの?」
アインは慎重に聞いてくる。
「学園から少し離れたところにある地下洞窟でいいよ」
あそこもそんなにハードル高いわけじゃないが、鍛錬ダンジョンよりはだいぶいい。
あんまりレベルをあげすぎると蛍以外が死んじゃうリスクあるもんな。
ほんとは天狗のほこらが一番効率いいと思うけど、現段階で行くのはちょっと早い。
地下洞窟に通ったりアライアンスで素材を集めたりして、天狗のほこらに行く準備をするのが無難だろう。
「あそこですか。ちょうど剣術部でお話をうかがったところです」
と蛍がニコリとする。
彼女は彼女で次の準備をはじめていたようだ。
「持つべきものは蛍のような名パートナーだな」
しみじみと言うと、
「エースケ殿ならそろそろと思っていたので。あっていて何よりです」
彼女は安心したと話す。
俺も彼女が乗り気なようで安心できたよ。
「以心伝心ってのはこういうことを言うのかねー?」
ウルスラがアインに話しかける。
「そうだね。この二人だとそんなに驚かないけど」
アインはそう答えた。
何でそんな風に思うのかちょっと気になるな。
聞いたらヤブヘビになりそうな予感がしたので自重する。
「アインは賛成でいいのか?」
「うん、みんながかまわないなら僕もいいよ」
質問に消極的ながらもアインも賛成した。
「ボクも賛成だね。鍛錬ダンジョンばっかしもぐってたらあきるもんな」
とウルスラが答えたので全員一致で決定だな。
「つっても具体的にどうなったらとか決めてんのか?」
ウルスラに聞かれたので、
「そりゃウルスラの装備をグレードアップしたらだよ」
と切り返す。
「お、おう、そりゃそうだな。わりー」
ウルスラはちょっと腰が引けた反応を見せた。
そんなつもりはなかったんだが、お前のせいで先に行けないなんてニュアンスに聞こえちゃったかな?
「そんな顔すんなよ。別に誤解なんてしてねーから」
とウルスラに笑われる。
「エースケ、わりと顔に出やすいよね」
アインに微笑ましい目を向けられた。
「くっ、何だこの流れは」
からかわれているというよりはもっとあたたかい、別のナニカのような気がしてならない。
「エースケ殿はいいリーダーだなと再認識したのですよ、みんなが」
蛍がそうフォローしてくれる。
「そんないい話だったか?」
少し納得できなかったが、うじうじ言うのも性に合わないので話は変えよう。
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