第113話「仲間との絆をたしかめただけ」

「隊列とかどうすんの?」


 とウルスラに聞かれる。


「前に蛍、アイン、ウルスラだな。左右に気配探知ができる蛍とウルスラを置き、中央に防御力があるアインを据える感じだ」


 俺は答えたから、逆に質問した。


「俺がリーダーでこれからも指示を出していくのか?」


「今のところ変な指示は出てねーしな」


「エースケがやるのが一番無難じゃない?」


 ウルスラとアインにそう返され、蛍は無言で力強くうなずく。

 たしかに考えてみれば他にリーダーシップをとれそうなやつは……蛍ならできる気がしてるが、本人にやる気がなさそうだな。


 ウルスラとアインは性格的に向いてなさそうだ。

 そっとため息をつくと、シェラがまた笑う。


「リーダーを他の人にやってほしいなら、集めるメンバーも考えなきゃ。キミが集めたメンバーなんでしょ?」


 まったくもってその通りだ。

 正論って反撃ができないからやになっちゃうね。


 シェラは単に指摘してくれただけだから、怒るとしたら自分自身にだが。


「能力とつき合いやすさを考えてたから……」


 そこまでは考えてなかったな。

 リーダー気質だけど我の強いやつだとめんどうなことになりかねないし。


 アインはともかくウルスラや蛍って妥協したくない点じゃ、絶対に妥協してくれないだろ。


「つまりキミがリーダーになるのは必然だったね」


「言われてみればそのとおりかもしれない!?」


 シェラの指摘に愕然とする。


「……マジで気づいてなかったのかよ?」


「だから天然って言ってるんだけどね」


「しーっ」


 ウルスラとアインを蛍がたしなめた。

 俺は何も見なかったし聞こえなかったし、泣いてなんかいない。


「ふっ」


 シェラにもう一度笑われる。

 彼女ってこんなによく笑うようなキャラだったっけ?


「まさかこんな愉快キャラだとは」


 という声が俺の耳に届く。

 シェラに愉快キャラ認定される日が来るとは思わなかった。


 この展開こそが愉快なんですけど!?

 逆切れしたけどあくまでも脳内でとどめる。


「で、本題に戻ってもいいですか?」


 半眼になりながらシェラを見ると、


「ごめん。どうぞ、リーダー」


 彼女は苦笑をこらえながら譲ってくれる。


「第一階層だから順番に戦っていこう。モンスターが複数出た時は、近い者が応戦するということで」


「了解」


 俺の指示は受け入れられた。

 第一階層だからなーと思うものの、気をゆるめるところをシェラには見せられない。


 まあこうして緊張感があるほうがちょうどいいだろう。

 第六階層へチャレンジしたい気持ちはあるが、シェラの正式加入フラグを立てるほうが長い目で見たら戦力強化になる。


 蛍がわらわら人形を倒し、噛みつき石はアインとウルスラが二人がかりで倒す。

 俺とシェラの出番は何もなかった。


 それでも真面目な蛍やアインはもくもくと作業をこなす。


「ふー、五人もいると第一階層じゃ物足りねーな。訓練が大事ってのはわかってるけどよ」

 

 ウルスラは耐えきれないという風にぼやく。


「問題なさそうだったら第二階層に行くか」


 戦力的には第三階層まではほとんど変わらないだろう。

 それでも一歩ずつやっていくというのは、精神を整えるという意味がある。


「常日頃から油断や慢心をなくす癖をつけておく、というのは非常に重要なことですよ、ノヴァク殿」


 蛍が彼女に話しかけた。


「おー、そうだろうな。もうちょっと気を引き締めるか」


 ウルスラは自分の両頬をぱんと叩く。

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