第114話「仲間との絆をたしかめただけ②」
「素直な子ね」
とシェラが右隣でつぶやいた。
ウルスラははすっぱな言動でだいぶ損をしてるだろうなと思う。
大きなお世話だろうから指摘はしないんだが。
もっと仲が進展したらその時にアインが言うかもしれないな。
第二階層でももくもくと探索を続けて一度休憩に入る。
休憩と言ってもみんなで警戒に当たるわけだが。
「なかなかいい感じね」
とシェラが評価を言う。
「いいんですか、今言ってしまって?」
質問してみると、
「ただの中間評価よ」
と笑われてしまった。
「暫定的な評価に一喜一憂する小物でごめんなさい」
反省してそう答えると、シェラはそっと俺の肩に手を置く。
「そんな顔しないの。キミは充分よくやっているから」
シェラは優しく言った。
「どうもありがとうございます」
思いがけない流れにびっくりして彼女を見ると、微笑が返ってくる。
漠然と思っていたんだが、やけにシェラの好感度が高い気がするんだよな。
まだ何にもしていないはずだが、無意識のうちにフラグを立ててきたんだろうか?
「うん、いい顔になったよ」
シェラは満足そうに話す。
お姉さんぶってるところか可愛らしい。
だが、人前で言うべきじゃないだろうな。
「ほら、風連坂さん」
アインが何か言った。
ふり向くと蛍が隣に来る。
珍しく力が無駄に入ってる様子になんだろうと疑問を抱く。
「エースケ殿、お一人ですべてを背負わないでくださいね」
「ああ、そんな気はないよ」
「それがしたちは……えっ?」
蛍には悪いが思い違いを正すのは早いほうがいいと考え、さっさと否定する。
「俺の悪い癖なんだろうな。心配してくれてありがとう」
「え、いえ、あの、その」
珍しく蛍が混乱していた。
ちょっと先回りしすぎたか……?
「ごめん。気遣いを無駄にしちゃったかな」
「いえ! それがしこそ差し出がましかったかと」
蛍はぶんぶんと首を横に振って否定した。
「気持ちはうれしいさ。一緒に悩んだり苦労する用意があるって言ってくれるつもりだったんだろう?」
俺は彼女の心を汲もうとする。
「は、はい」
彼女は目を丸くしながらも肯定した。
「そういう仲間がいてくれるとありがたいと思うよ。よかったらこれからも頼りにさせてくれ」
俺は彼女の目を見つめながら告げる。
「よ、喜んで」
蛍は心なしか頬を染めながら何度もうなずいた。
「……あれって天然なんだよな?」
「確実に無自覚天然だよ」
ウルスラとアインが何かを言った気がするがよく聞き取れない。
大きな咳払いが聞こえたのでちらりと見ると、シェラだった。
「キミはたまにとんでもないことを言うんだね」
彼女もちょっと頬が赤い気がする。
「? 俺、何かおかしなことを言いましたっけ?」
仲間との絆をたしかめただけなんだが。
「あー、なるほど、うん」
シェラは額に手を当てて軽くうなり、横を向く。
数秒後気を取り直したように再びこちらを見た。
と思ったら視線は蛍に向けられる。
「苦労するかもしれないね」
「そんな予感はとっくに生まれていますよ」
シェラの言葉に蛍は苦笑を返す。
何だろう、女の子どうしの秘密の話なんだろうか?
何となく話しかけにくいな。
そろそろ休憩終わりって言いたいんだが。
ちらりとアインとウルスラを見るが、こっちは生あたたかい視線を送ってくる。
何だか五人パーティーの中で俺だけが孤立してるような錯覚さえ生まれそうだ。
ここは強引な手に出るのもやむなしか。
咳ばらいを何度かして、仲間たちの注目を集める。
「そろそろ休憩時間が終わりだよ」
俺の発言に蛍とシェラはうなずき、アインとウルスラは懐疑的な顔をした。
精度の高い体内時計を持っているかどうかで別れたのだろう。
「第三階層に行って今日は帰還するとしよう」
第五階層には行かないつもりだ。
たぶんシェラにはいびつな戦力で試練モンスターを倒したことはバレるだろうけど、新戦力が入った日に挑戦するよりはマシだろう。
「無難だね。冒険はしないの?」
「どのみち今日はしませんよ」
シェラの問いに俺はしれっとうそをつく。
彼女にじっと見つめられたが、平然と見つめ返す。
「そっか」
彼女は納得したようだった。
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