第112話「この場合自業自得なの?」
彼女は口元を手で隠して横を向きながら、体をかすかに震わせている。
「ご、ごめん」
シェラがこんな風に笑うのは珍しいはずだから、腹は立たなかった。
どうしてこの反応? という気持ちのほうが圧倒的に強い。
「シジマくんってこういう子だったんだ」
どっかで聞いたことがある言葉に、見たことがあるような顔だな。
この展開いい加減にしつこいんだが、この場合自業自得になったりするんだろうか?
「最近みんなで言ってるのですよね」
蛍が笑いをこらえながらシェラに話しかける。
「ああ、そうでしょうね」
「……壮大な計算を緻密にやっていくタイプかと思っていたのに、実際は無自覚天然タイプだったとわかった時の衝撃を考えれば」
シェラはメチャクチャ納得していた。
天然天然うるせえよ、言えないけど。
「では続いてそれがしが話しましょう」
俺がイラっとしはじめたのを察したのか、蛍は咳ばらいをして会話の流れを戻す。
「ジョブはサムライです。黒儒人に発現しやすい剣士系統のジョブで、流派は風光一刀流。こちらで言う『魔力』を消費しますが、魔法攻撃も可能です。ただし接近戦専門となります」
慣れを感じさせる流れるような説明だった。
黒儒人は魔力のことを『荒力』と呼んでいるんだったっけ。
「他にも気配をさぐったりできます。これは剣士系統共通ですね」
と蛍はさらりと言ってのける。
アインは苦笑し、ウルスラはあきらめ顔になっているが、シェラは短く息を飲んだ。
「さりげなくとんでもないこと言ったね」
シェラはじっと観察するような視線を蛍に向ける。
「たしかに『気配探知』は剣士も覚えるけど、免許皆伝かその手前の極意の領域のはず」
「……ご存知であれば隠す意味もありませんね。それがしは風光一刀流の極意を授かっております」
蛍は仕方ないという顔で答えた。
「そうなんだ」
シェラは納得している。
おそろしいのは蛍はまだ一番うえの免許皆伝じゃないってところなんだよな。
字面的に極意も似たような意味なんじゃないかって俺は思ったんだが、風光一刀流の中じゃ別らしいのだ。
念のため聞いておくか。
こっちの世界でなら知らなくて当然のことだし。
「極意と免許皆伝とはどう違うんだ?」
「あ、同じことを考えたわ」
俺が問うと間髪入れずにウルスラが言う。
アインも賛成だと言いたそうな顔だった。
「風光一刀流には極意、もしくは奥義と呼ばれる技がいくつかあるのです。すべてを使えて初めて免許皆伝となります。それがしは二、三使えるだけですから」
蛍は隠さずに教えてくれる。
その分け方だと、免許皆伝の人より蛍のほうが強いことだってありえるんじゃないか?
そんな疑問が浮かんだものの、聞かないほうがいい気がした。
「風光一刀流は有名な流派の一つ。その年で極意を使えるのは充分すごいこと」
シェラは掛け値なしに称賛したが、蛍はぺこっとお辞儀をしただけですませる。
「やっぱり風連坂さんはすごい人なんだね」
とアインがしみじみと言う。
「まだ未熟の身ですよ」
蛍はやんわりと否定した。
「いいから次いこうぜ」
俺が紹介の続きをうながす。
「次は僕かな? 戦士のジョブを持ってます。まだ未熟なので壁と荷物運びを兼任する形ですね」
アインが自虐めいたあいさつをする。
「ボクはウルスラ。ローグでお宝を発見したり、敵を探知したり、罠を見つけて解除するのが役目さ。もっともあんまり役に立ててないけど」
ウルスラも彼のまねをするような自虐風紹介をした。
「本番は第六階層からだろうからな。頼りにしてるぜ、前衛三人」
少なくともウルスラは忙しくなるだろうと思い、俺はみなに告げる。
「善処します」
「がんばる」
「できることはする」
蛍、ウルスラ、アインは三者三様に応えた。
ちらりとシェラを見ると彼女はつぶやく。
「私も問題ない範囲で対処するよ」
おそらく一年レベルの力しか出してくれないだろうな。
それでもありがたいんだが。
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