第111話「ロングフォード先輩の力も見なきゃ」
「お待たせ」
と言ってシェラが戻ってきたのは数分後くらいだった。
カバンは置いてあること以外に変化はない。
「制服のままで大丈夫ですか?」
俺が聞くと彼女は「ああ」と言って、
「鍛錬ダンジョンだしね。それに下はほら」
彼女はスカートをめくってスパッツにそっくりな運動着を見せてくれる。
「なるほど」
本格的に動いても大丈夫というのはわかった。
女の子にこういうことされると免疫ゼロの俺はどぎまぎしてしまうんだが、女の子は平気なんだろうか。
蛍もウルスラも気にした様子は見せなかったし、シェラも平然とした顔だ。
「私は黙って見てるからいつもの通りにやってね。指示に従うかどうかはキミたちしだいかな」
シェラはいたずらっぽく笑う。
俺たちのふるまいがどうか試すことを隠すつもりがない顔だった。
「と言っても組んでまだ二日目レベルだからな」
頭をぽりぽりとかく。
「お互いのことをしっかり把握するチャンスを設けたほうがいいでしょうね」
蛍がそう提案する。
「そうだなー。まだお試し同然の探索しかしてねーもんな。じゃあまた第一階層にでも行くか?」
ウルスラが答えた。
お試し同然の面子で試練モンスターを倒したことは、今はまだ言わなくていいもんな。
示し合わせてなかったから不安だったが、上手くいったようだ。
言わなくてもいいことは言わないのは立派な駆け引きである。
俺たちは何もずるくない。
背徳感を感じる自分にこっそりと言い聞かせたりする。
「それじゃあロングフォード先輩の力も見なきゃね」
アインがそう言ってシェラのほうをちらりと見た。
「それは当然ですね」
彼女はこくりとうなずく。
パーティーメンバーとして主張するのが当然と思われることには素直に従ってくれるようだ。
わざとごねて上級者向けの対応を求めてくる、なんて意地悪なことはしないらしい。
少なくとも今のところは。
第一階層の入り口の前まで来たところで俺たちは立ち止まる。
「ではロングフォード先輩、自分の紹介をお願いします」
「了解」
手本を見せてもらうという意味も兼ねて、最初に振ったんだが普通に承知してもらえた。
「私のジョブは魔法使い。できることは『使い魔召喚』、『レコード』、『気配感知』、あとは水と氷の攻撃魔法」
うん、普通に多芸だよな。
「スゲー」
ウルスラは感心し、アインは絶句し、蛍も目を丸くしている。
使い魔召喚は特定の能力を持った使い魔と契約し、使役する魔法だ。
レコードはダンジョンに入った時、自分たちがどんな風に歩いたかを記録する魔法である。
広大で複雑なダンジョンにもぐる時は、この魔法を使える人がいるかどうかで難易度は大きく変わる重要なものだ。
気配探知はまあ他に二人も使い手がいるんだから使ってもらう機会は少ないだろう。
魔法使いは他のジョブじゃできないことに魔力を使ってほしいもんだ。
「シジマくんは見たことがあるよね? 私の使い魔」
「はい」
シェラの問いにうなずいた。
ここで召喚してくれたらてっとり早いんだけど、魔力の浪費はしてくれないだろうな。
「あの使い魔は伝令や斥候にも使えると覚えておいて」
鳥タイプの使い魔はやっぱり便利なんだよな。
と思いながら首を縦に振る。
「じゃあ次は俺かな」
最後にってわけにもいかないだろうから先にすませてしまおうと判断した。
「ジョブは錬金術師だ。できることは現段階だとあんまりないかな。回復ポーションを投げたり、弱体化ポーションを投げたり、装備やアイテムを作ったり」
そう話し終えると、
「できることいっぱいあるじゃん」
「何言ってんだエースケ」
アインとウルスラの二人からツッコミを食らう。
「そんなことを言われても、まだ大したことはできないからダンジョンで戦力になれるかは怪しいんだが?」
少なくともシェラや蛍と同列には置けないはずだ。
「エースケ殿の重要性はそういうところにはないと思いますけど」
蛍は手をあげて少し遠慮がちにしながらも、そう指摘をしてくる。
うーん、どうしようかな、この反応。
と思ったらぷっと吹き出す声が聞こえた。
確認するまでもなくシェラだった。
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