第110話「相当にややこしいやつ」
放課後に楽しみなイベントがあるせいか、午後の授業はあっという間に終わってしまった。
ちゃんと集中していたはずなのにと自分でも驚きを禁じ得ない。
生徒会室前で待ち合わせと言ってもウルスラ以外は教室を出る段階でそろってしまう。
「いよいよか。何だか緊張するね」
廊下に出たところでアインがそうつぶやく。
彼の気持ちは正直理解できる。
今回はきらわれなきゃオッケーだろうと思うようになった俺だったが、そう思えなきゃアインみたいになってただろう。
「運を天に任せるしかありませんよ」
蛍はというと肩の力が抜けていた。
彼女はシェラにどう思われようとも、どんな結果になろうともあまり気にしてないのかもしれない。
そういう心理になれると強いよなー。
俺は蛍の境地には足りていないと思う。
ウルスラとは渡り廊下に出たところで合流できた。
「おー、何だ。あっさり合流できたじゃん」
彼女はへへへと笑うが、まったく同じ心境である。
クラスが違うとどうしても不便なことがあるよなーって感じだったが。
もっともこういうところで運を使いたくないなと一瞬思ってしまう。
「こういう時に運を使わなくても、なんて思っちゃうことない?」
なんてアインが言い出したので思わず彼を見る。
「? どうしたの?」
「俺もちょうど同じことを考えてたんだよ」
驚くアインにそう言うと彼は納得した。
「ああー、そう思うよねえ」
アインは相好を崩す。
思いがけないところで気が合うなと笑いあう。
「運を使ったとはかぎりませんよ。確率的には高いことですから」
と蛍が言う。
「そうだよなー。幸運って言うにはちょっとばかり弱いな」
ウルスラも彼女に賛成のようだ。
「こういう時は男女で意見が分かれんだなー」
さらにウルスラはそうつけ加える。
「そうそう意見が一致し続けるのも変じゃないか」
「だな!」
俺の切り返しにウルスラは楽しそうに笑った。
まだ知り合ったばかりとは思えない、楽しいやりとりに満足する。
生徒会室に着くとばったりシェラと出くわす。
「……この展開はちょっと想定してなかった」
彼女は目を丸くして言う。
まったくもって同感だった。
「さっそくお願いしたいんですが、難しいでしょうか?」
と聞いてみる。
いくら何でも一度も生徒会室に顔を出さないというのはダメじゃないかなと思いながら。
「さすがに顔を出してカバンを置かせて」
シェラはふっと苦笑する。
「ですよねー」
予想できていたのでうなずいて引き下がった。
彼女がドアを閉めると、
「大胆なことを言うね」
とアインが言う。
「聞いてみるだけならいいだろ。生徒会のシステムなんて知らないんだから」
何も知らない一年と思われてるからこそ、できるやり方だというのはあるだろうな。
「一年であることを盾にするというのは悪くないですが、濫用は危険かと」
蛍がやわらかく忠告してくる。
「甘えが無意識にできるからか?」
考えずにやってるわけじゃないんだよなぁ。
「お気づきでしたか」
蛍はほっとしたようだ。
「わかっててやってたあたり、うちのリーダー様はやっぱりタチがわりーよな」
「この場合は性格が悪いって言うべきじゃないかな?」
ははんと笑ったウルスラにアインがひそひそとささやく。
「お前たち、聞こえてるぞ」
俺が聞きとがめると、ウルスラとアインはニヤニヤ笑いを向けてくる。
「頼もしいと解釈するべきでしょうね」
蛍が彼らと俺の間に入ってきた。
「どうしても戦略、作戦のたぐいは必要なことです。エースケ殿がいらっしゃれば解決できるのであれば大変心強いです」
彼女の言葉に表裏はない。
だから俺は肩をすくめて、
「善処することは約束するよ」
と答えるしかなかった。
「アテにしてるぜ、リーダー」
ウルスラはそう言ってニヤリと笑う。
彼女に言われても責任を押しつけられたような、ネガティブな感覚にはならない。
得な性分というかこういうところはヒロインらしいよな。
「みんなのことも頼りにさせてもらうよ」
俺が切り返すと蛍がこくりとうなずく。
「むろんです。貴殿を支えるのは我らの役目でしょう」
彼女が大真面目に言ったのでアインも神妙な顔で首を縦にふった。
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