第109話「照れくさいんだよな」

「ギャグって何だよ……」


「このメンバーで一番やらかして目立ってんのは、どう考えてもエースケじゃん?」


 ウルスラの遠慮がかけらもない物言いに、言い返せなくて詰まってしまう。

 単純に目立つだけなら蛍かもしれないが、俺は俺でいろいろやってるからなぁ。


「リバーシの件も加算すれば俺は蛍よりもうえにくるのかもしれない?」

 

 しぶしぶ言うと、ウルスラは半眼になる。


「おい、まさか今になって気づいたとか言わねーよな?」


「エースケのことだからあんまり自覚してなかったのはありそうだよ」


 アインが疲れたとばかりにため息をつく。

 気のせいか、ウルスラの顔が若干ひきつった。


「考えてねーのか考えてんのか、どっちかにしてくれよ。ややこしすぎる」


「エースケは正直、相当にややこしいと思うよ?」



 困惑するウルスラにアインが笑う。


「否定はできませんね、残念ながら」


 蛍も苦渋の顔をしつつも否定してくれなかった。


「まさか蛍まで……」


「忌憚のない意見を申し上げるほうが、貴殿のためになると思います」


 蛍は真剣な顔で俺を見つめてくる。


「その通りだな」


 正論すぎて否定できないけど、つまり俺の評価も確定ってことだよなあ。


「まあ、人間って複雑な生きものだから」


「ハハハ」


 言い訳をウルスラに笑われたが、馬鹿にした感じはなかった。


「男って単純な生きものだと思ってたが、そうでもねーのな」


 彼女はそう言う。

 

「男が単純なのは否定できない」


「できないよね」


 俺とアインはそう言いあい、女子二人を苦笑させる。


「まあロングフォード副会長が来てくれるってなんなら、いいとこ見せようぜ?」


 ウルスラはそう言ってアインもうなずいたが、俺は賛成しなかった。


「ロングフォード先輩にはそういうところは見抜かれる危険がある。下手に背伸びせず、普段の俺たちを見せたい」


 そう主張すると、ウルスラ・アインは意外そうになる。


「いいのかよ? もしかしたら正式メンバーになってくれるかもしれないんだろ?」


「無理だと思うよ」


 ウルスラの希望まじりの言葉をばっさりと切り捨てた。

 ゲームの知識になるが、今の俺たちにシェラの正式加入条件を満たすのは難しい。


「無理してリスクをとる段階じゃない。そんなことしようとすれば、きっと先輩に失望されてしまうだろう」


 一度見切った相手の評価を修正しないほどシェラは頑固じゃないけど、確実に時間がかかってしまう。


「賛成ですね。二年の生徒会役員とあろう方が、一年の実情を知らないとは思えませんし」


 と蛍が賛成する。


「そうだね。ただでさえ風連坂さんっていう規格外がいるんだ。下手なことをすれば心証を損ねちゃうかもしれないね」


 アインは納得がいったという顔で言った。


「言われてみりゃーそうなるかもな。撤回するよ」


 ウルスラはあっさりと自分の意見をひっこめる。

 ゲームの時と同様、つき合いやすい性格だった。


「待ち合わせ場所はどうすんだ?」


 ウルスラに聞かれたのですぐに返答する。


「生徒会室まで来てくれってことだ。部屋の前で集まって、それからノックしようと思うんだが」


「それでいいんじゃねーの。どっかで待ち合わせをしてから集まってからじゃなきゃ、行けねーところでもねーし」


 ウルスラの反応が決定となった。

 アインも蛍も異論はなかったのである。


 ウルスラの教室の前で俺たちは別れた。

 ウルスラに手を振ったのはアインと蛍で、俺はちょっと手をあげただけである。


 何だか照れくさいんだよな。

 特に女子相手に手をふるって行為が。

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