第106話「異常な展開なんだろう②」

 食器トレーを返したところで俺たちは別れた。

 二人きりになった時、蛍が小さい声で聞いてくる。


「ゴリアテ殿と何かあったのですか?」


「ああ、昨夜二人で男どうしの話をしたのさ」


 隠すことじゃないんだが、どう説明すればいいのか難しいことだ。

 結局本質をとらえているようであいまいさの残る回答になってしまう。


「なるほど……ゴリアテ殿が吹っ切れたのでしたら何よりです」


 蛍は納得できたらしい。

 歩き出しながら俺は言った。

 

「もうちょっと聞かれるかと思ったんだが」


 その場合は頑張って話すつもりだった。


「男どうしの友情は女には理解しがたいと母に言われたことがありまして」


 と話した蛍の顔には苦笑に近いものが浮かぶ。


「そうかもしれないな。突き放すつもりはないけど、男から見た女もよくわからないことが多い」


 俺はそう返す。

 相手のことなんてすべてがわかるはずがないということを念頭に入れ、つき合うのが大事なんじゃないだろうか。


 ぼっちだったやつだからこんなこと思うのかもしれないけど。


「お互いさまというわけですか。ありえますね」


 幸い蛍は同調してくれた。

 食堂から生徒会室はそこそこ遠い。

 

 中に生徒会メンバーの顔はなかったので、彼らはおそらく生徒会室か教室だろう。


 めんどうなのが生徒会室に来るまでにシェラやフィーネと話しておきたい。

 そんな俺の願いはかなった。


 ノックして生徒会室に入った時、シェラとフィーネとパウルの三人しかいなかったのだ。


「あら、いらっしゃい。今日はどうしたの?」


 すっかり見慣れたフィーネが優しく微笑む。


「グルンヴァルト会長やロングフォード先輩と一緒にパーティーを組めないのかなと思いまして」


 組んでほしいと申し込むべきか、可能かどうか聞いてみるか、どっちのほうがいいのか迷った。


 そして結局後者を選んだのである。

 ゲームじゃこういう流れはなかったから自分の勘を頼るしかなかった。


「あら、大胆なお誘いね」

 

 フィーネは愉快そうに笑う。

 少なくとも怒ってはいないので第一ハードルはクリアしたと考えていいだろう。


「それは正式なメンバーとして? それとも臨時の助っ人で?」


 シェラのほうはもう少し踏み込んできたとしか思えない質問をしてくる。


「臨時です。いきなり正式は無理だろうなと」


 そう答えると彼女は小さくうなずいた。


「条件次第では引き受けてもいいよ」


 シェラはそう返答する。

 驚いたのは俺と蛍だけじゃなくて、フィーネとパウルもだった。


「あら、シェラ。新入生を特別扱いするのはよくないって言ってたのはあなたじゃなかったかしら?」


 というフィーネの疑問に俺も賛成である。

 シェラは短く首を横にふり、


「彼の活躍はめざましく、ただの新入生とは思えません。ならば相応の判断が必要になるかと思います」


 と答えた。


「なるほどね。認めましょう」


 フィーネの決断は早かった。


「会長!? ロングフォード!?」


 パウルが目をむいて叫んでいるので、異常な展開なんだろうなということは想像できてしまう。

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