第105話「異常な展開なんだろう」

 次の日の昼休み、四人で飯を食おうとテーブルに座ったタイミングで俺は言った。


「残りの面子についてなんだが、生徒会長とロングフォード先輩を誘ってみるというのはどうだろうか?」


「……は?」


 ウルスラは目をむいて、こっちの正気を探ってくる。

 

「まさかその手でくるとは」


 蛍も珍しく呆然としたようだった。

 意表を突くことに成功したと誇る気にはなれない、悪い流れである。


「承知してもらえるとは思わないけどな」


「そりゃそーだろうよ」


 俺が言うと気を取り直したウルスラがはっきりと言う。


「言ってみるだけならタダってやつか? まさかエースケがそんな手をやろうと考えるなんてな」


 ウルスラの中で俺を見る目が変わったみたいだった。

 

「名案やもしれませんが……成功率が期待できないのでは名案とは言いがたいですね」


 蛍は言葉を慎重に選んでいる。


「言いたいことはわかるよ」


 発想は大したことあるかもしれないが、現実性が低いってな。


「ただ、ダメでも知ってる人を紹介してもらったり、探し方を教えてもらったりはできるだろう」


 断られたかわりという条件なら、余計にハードルは低くなる。

 大きな条件を断られたあとに小さな条件を出せば受け入れられやすいってのが、人間の心理なんだっけ?


「生徒会に聞いてしまうというわけですか。ユニークで面白いですね」


 蛍は愉快そうに声を立てる。

 

「その発想はなかったぜ……」


 ウルスラは楽しそうというよりはいっぱい食わされたって顔になった。


「まあ教えてもらえない可能性も考えておかなきゃな」


 フィーネもシェラもそこまで甘くない気がする。

 ヒントをもらえたらラッキーだと思っておこう。


「まあカンニングは言い過ぎにしても、ちょっとずるっぽいもんな」


 ウルスラはハハハと笑った。

 聞いたら教えてもらえることを教えてくれる相手に聞くのは、いったい何が悪いのかと俺は思うけどな。


「ずるではありません。賢く立ち回るというのです」


 すまし顔で言うと蛍が拍手してくれる。

 しかし他二人は苦笑しただけだった。


「ものは言いようってだけじゃね?」


「悪賢いって言うべきなんだろうね」


 ウルスラとアインの評価は手厳しい。

 批判的じゃないものの、大いに褒めてもらえることはなさそうだ。


「賢く立ち回らないとつらい世界なのに何言ってんだ」

 

 と言い返す。


「それな」


 ウルスラは残念そうに肩をすくめる。


「ほんとだね」


 アインもため息をついて認めた。

 みんな苦労してるんだよな。


 苦労知らずのお嬢さんお坊ちゃんだったらもっと違った道もあっただろう。

 ……彼らは彼らなりに苦労しているという情報を思い出したので、浮かびかけたよからぬ考えを打ち消しておく。 


 どうしようもないやつもいるはずだがな。

 生徒会にも少しいるし。


「話を戻すが、飯を食べ終わったら俺はさっそく生徒会室に行ってくるよ。善は急げって言うしな」


 と言っておく。

 

「ボクたちはどうするか、だな。みんなで行く必要あるか?」


 ウルスラの疑問はもっともだ。

 誰かが入ると言うなら顔合わせ的な理由でみんなで行くべきだろうが。


「それがしはエースケ殿におともいたしますよ」


 蛍が即答する。


「蛍は二人と面識あるしな」


 別についてくるのに抵抗はないだろう。


「僕とウルスラはどうしよう……ついていきたいかと言われても迷うけど、待ってる間どうすると聞かれても困るんだよね」


 アインは腕を組んで考え込む。

 そりゃ二人はそうだろうな。


「ボクたち二人でダンジョンの第一階層でも行ってみる?」


「え、二人だけで?」


 ウルスラの提案にアインは逃げ腰になる。

 ヘタレと笑うのはちょっとかわいそうだ。


 俺だってウルスラの大胆な考えには驚きを隠せない。


「第一階層だったらやばくなったところで逃げられるだろ。下の階層だと風連坂なしだときついだろうけど」


「そうだね。第一階層くらいなら……」


 アインはわりと乗り気な姿勢を見せる。

 二人の間で話がまとまりそうなら俺に異論はなかった。


 二人とも無茶をするほど馬鹿じゃないだろうし。


「じゃあ二手に別れようか」


 と言うとウルスラがこっちを見る。


「一応聞くけど、反対しないんだよな?」


「反対するようなことでもない。危ないことなら止めるけど、心配はしてないよ」


 アインは慎重で自信がない性格だ。

 ウルスラは勇気と無謀の違いがわからないほど馬鹿じゃない。


「お、おう? 思ってた以上に信頼されてたみてーだな」


 ウルスラは困惑していた。

 まあ知り合ったばかりだからな、彼女にしてみれば。


 俺にとってはゲームで知ってるし、ゲームと違いがなさそうと判断できたなら安心も信頼もできる相手なんだが。


「エースケは相当信じてくれるよ。こっちも応えなきゃってあせるくらいに」


 アインはそう言って笑う。

 何かひと皮むけたようなおだやかな表情だった。


 それに気づいたのか蛍は彼と俺の顔をちらちら見比べる。

 やっぱりいい勘をしてるよなぁ。


「おう。信頼してくれるリーダー様に恥をかかせられねーな」


 ウルスラはニカッと笑う。

 彼女は太陽とか言った形容が似合うだろうなと思う。


 対する蛍は水か若葉かな?

 俺の勝手なイメージなので理由を聞かれても困る。

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