第103話「魔王軍が来るとは言えない」

「説明するのは難しい。しいて言えば勘だな」


 と俺が言うとアインは落胆する。


「僕は真剣なんだよ。はぐらかさないでもらいたいんだけど」


 そう反応するのは読めていたので、すぐに切り返す。


「お前、俺の勘をナメてない? 蛍も最初はよくわからんけど、何となく仲よくしておこうって思ってただけなんだぜ?」


「え、そうだったの?」


 アインは目を丸くする。

 やっぱり通じたな。


 俺と蛍がどうやって知り合って仲良くなったのか、こいつは何も知らない。

 だからこそ説得できる可能性があると踏んだ。


「仲良くできそうなやつ、仲良くしておいたほうがよさそうなやつは何となくわかるし、けっこう当たるんだよ。俺の場合」


 大真面目な顔で話す。


「……風連坂さんを例に出されると反論ができない……」


 少しの間を置いてアインはうめいて、自分の負けを認める。 

 うん、蛍と最初に仲良くなっておいて本当によかった。


 あの子はマジで幸運の女神なのかもしれないな。


「あとについては俺たち友達だからでいいだろ? もちろん貸しを返してくれることは期待させてもらうが」


「う、うん」


 アインは完全には納得していないだろうが、だいぶ表情がマシになった。


「あと何かある?」


 せっかくだから吐き出してしまえとうながす。


「う、うーん……エースケはパーティーの方針とか目標とか考えてるの?」


 アインはすこしためらいながらも問いかけてくる。


「考えてないよ」


「えええ!?」


 即答すると仰天された。


「そもそも正式にそろわないと意思疎通できないだろ。方針を先に決めてしまって、賛同してくれるメンバーを募るって手もたしかにあるんだが……」


 意味ありげに語尾をにごす。

 だって今のうちにパーティー方針決めるメリットなんてないんだよな。


 みんなを納得させられそうな方針自体はすぐに考えつけるが、どうせ数年後には転換しなきゃいけなくなってんだよなあ。


 数年後には魔王軍が本格的に攻めてくる。

 ……考え方を変えるなら、それまでに困らない程度の資金と物資をたくえ、知名度をあげておき、できるだけ戦力の底上げをしておきたい。


 これこそを目標に据えるべきなんだろう。

 しっかしなあ魔王軍が来るからとは言えないし、それを言わずに目標に設定しても説得力は生まれない。


 蛍やアインは頼み込めば何とかなるかもしれないが、残りのメンバーはどうするんだよ。


 聞き分けのいいやつらばかりじゃないぞ。


「いっそフィーネ先輩やシェラ先輩に頼んでみるか?」


 シェラは魔法使いで、フィーネは聖騎士だからヒーラーという条件を満たす。

 この二人なら俺がミスらなかったら何とかなりそうな手ごたえもある。


「えっ? 一年じゃなくて?」


 アインが目をみはった。


「まあ頼んでみるだけならタダだろ。何ならいい人を紹介してもらえるかもしれないし」


 言ってるうちに案外いいアイデアかもしれないと思いはじめる。

 今さら考えるまでもなく、二人は強く信頼ができる戦力だ。


 何となく彼女たちのことは除外していたが、長期プランでいくなら勧誘するって選択肢はあるはずなんだよな。


 無意識のうちに遠慮しちゃっていたんだろうか?

  

「えっ、あの先輩たちに……?」


 アインは何だかやたらと腰が引けてしまっている。


「ああ、ダメだったら仕方ないけど、聞いてみるくらいいいじゃないか?」


「そうだね……ダメもとって言うしね」


 改めて言うとアインはようやくうなずいた。

 何だろう、年上の女子が苦手だったりするんだろうか。


 主人公の家族構成や過去は固定されないというよくわからないシステムだったので、彼の過去が予想もつかない。

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