第104話「魔王軍が来るとは言えない②」


「いやならいやって言っていいんだぞ? 決定権は俺が持つと言っても、意見はどんどん言ってほしい」


 断りを入れておく。

 言わないと遠慮して我慢してしまいそうだからな。


「いやってわけじゃないんだ。ただあんな綺麗でいいところのお嬢様ってタイプは気後れしちゃうだけで」


 アインは恥ずかしそうに打ち明けてくれた。

 なるほど、シャイなだけか、これは。


 俺が言っても流されるだろうけど、主人公が言えば「カワイイ」とお姉さまがたにチヤホヤされるやつだ。


 想像しただけで腹が立ってきたが、想像だけで殴るわけにはいかないからなぁ。


「心配するな。たぶん断られるから」


 だって上級生なら固定メンバーいるだろ。

 ゲームだったらイベントが発生して加入するルートがたしかにあったが、一度は断られるはずだ。


「どうして弱気な発言を強気な態度で言ったの?」


 アインはポカーンとしてこっちを見る。


「断られる自信があるからだな」


「言い切った!?」


 胸を張って言うことじゃないかもしれないが、あえて胸を張った。

 アインは力強く叫ぶ。


「明日にでもさっそく頼みに行ってみよう」


「えっと、一応他の二人の意見も聞いてみたほうがいいんじゃないかな?」


 とアインがちょっと引きながらも待ったをかけてくる。


「そりゃそうだな」


 正論だと感じたので賛成した。

 蛍もウルスラも賛成してくれるだろうか?


 ウルスラはわからないが、蛍には反対されないと思う。

 理由が思いつかないし。


「昼休みに四人そろったタイミングで提案してみよう。どっちか一人でも反対したらやめておこう」


「そうだね。それがいいと思うよ」


 アインはあきらかにほっとしていた。

 俺が聞く耳を持っていることにか、それともどっちかが反対するだろうと思っているからか。


「それにしても大胆なことを考えるね。先輩を誘うだなんて」


 とアインは言った。

 学年の差が大きいのは心理的なものもあるのかもしれないな。


 俺だって今日までは何となく避けていたくらいだもんな。

 他の生徒たちはもっと大きいと考えたほうがいいのかもしれない。


 ウルスラも蛍もそういうの気にするタイプだとは思わないんだけどなあ。

 ただ、思わぬところでズレがあったりするみたいだから、過信しないようにしよう。


 とりあえずお茶を飲む。


「味はどう?」

 

 アインがおそるおそる聞いてくる。


「正直普通だな」


 遠慮する必要を感じないのではっきりと告げた。


「はっきりと言うね」


 アインは怒らず苦笑する。

 自覚はあるんだろうし、遠慮されないことがうれしかったんだろう。


 俺だって似たところはあるから想像はできる。


「だけど、俺よりは美味いよ。その辺さっぱりだからな」


「自分でやればお金節約できるよ? エースケは気にしなくていいのかな」


 ちょっとうらやましそうだった。

 まあ今の俺は学生にしては金持ちと言っていいレベルだからな。


 シェラやフィーネのように家が金持ちの生徒を除けばだが。

 

「苦手なもんは苦手なんだよなぁ。アインと違って苦手にも挑戦するような殊勝な性格じゃないんだ」


「うーん、何かエースケらしいね」


 俺の主張にアインは苦笑を返す。

 笑うところじゃないんだがまあいい。


「それに金持ちじゃないぞ。投資のために使う種銭みたいなもんだしな」


 がっつり使えばすっからかんになるかもしれない。

 今の金額はその程度である。


 リバーシがもっと売れてくれたら別だが。


「豪快だね、エースケって。とてもまねできないよ」


 アインは目を丸くし、次にうなって感心する。


「まねする必要はないだろう。お前のいいところはまったく違うところにあるんだ」


「うん、そうだといいなあ」


 アインは願望を口にしてお茶を飲む。

 何となく話が途切れてしまった。


 話しておきたいことはだいたい話したし、話すつもりがなかったことまで行ってしまった感がある。


「そろそろおいとまするとしようか」


 お茶を飲み干して立ち上がる。

 コップはテーブルの上に置かず、アインに手渡す。


「じゃあまた明日な」


「うんまた明日」


 アインは律義に玄関まで見送ってくれた

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