第102話「友達だから②」

「エースケは時々考え込んでるよね? 今も」


 階段をのぼりながらアインに話を振られる。


「そりゃ考えることはいっぱいだよ。お前ら基本的に全部俺に丸投げじゃん」


 いやみを言ったつもりはないが、アインには刺さったらしい。


「うっ、申し訳ないとは思ってるよ」


 たじろいで目を泳がす。


「好きでやってるからいいんだが、負担を肩代わりしてくれるなら歓迎だぜ?」


 と言って彼の肩を叩く。


「で、できる範囲で協力するよ。さしあたっては素材集めくらいしかできないけど」


 アインがそう言ったので笑う。


「冗談だよ」


 うそじゃない。

 

「でも正直、エースケにばかり負担をかけちゃってるなとは思ってるんだよ」


 アインは自嘲する。

 二人だけだからかはっきりとした気持ちが表れていた。


 ここは適当に流さないほうがいいかもしれない。


「お前の部屋に行ってもいい?」


「え、うん。いいけど」


 アインはびっくりしながらも首を縦に振ったので、とりあえず部屋まで押しかける。


 部屋の作りは俺のものと一緒だが、彼の部屋のほうが整然としていた。


「アインは掃除も整理整頓もできるんだな」


 ゲームの時はヒロインにやってもらってるイメージが強かったんだが。


「うん、一応できるだけ自分のことは自分でできるようになりたいからね」


 と言って照れくさそうに彼は笑う。

 女性にとっては胸キュンポイントなのかなとゲーマー的思考で思いつつ、同時に反省する。


「俺は苦手だから反省する」


「エースケなら頼めばやってくれる子、いるんじゃない?」


 なんてアインが言い出したのには驚きだった。


「いないだろ、そんな子」


 だいたい彼女でもない子に部屋の掃除や片づけをしてもらうってのは、何だか抵抗がある。

 

 ゲームで見たり現実でやってもらってるやつについては羨ましいとは思うんだけどな。


 自分でも自分のこの心理がよくわからない。


「……エースケって天然鈍感系っぽいよね」


「殴ってもいいか?」


 やっぱりかという顔をされたのでとりあえず右手で拳を作る。


「はは、勘弁してよ。たぶん僕のほうが弱いんだから」


 アインは笑うと、奥を指さす。


「入り口で立ち話も何だから入って適当に座って。お茶でも出すよ」


「おお」


 そう言えば部屋の中は土足禁止じゃないんだった。

 気を抜くと靴を脱ぎそうになるが、人前でやると怪訝に思われるから気をつけよう。


 リビングの壁側の椅子に座り、正面のキッチンでエースケがお茶を淹れる姿をながめる。


「様になってるな」


「はは、そうかい? 慣れちゃったからかな?」


 エースケはそう言ってピッチャーからお茶を出す。

 そう、この世界冷蔵庫と言えるものやピッチャーがあるのだ。


 魔法がある世界だしゲームなんだから仕方ないんだが、最初はちぐはぐな印象を抱いたものだ。


 運営、世界観を緻密に作るつもりも統一する気もなかったんじゃないか?

 そんな疑問を思ったのは俺だけじゃないだろう。


 何周もプレイするうちに慣れちゃったけどな。


「はい、どうぞ」


 白いコップに注がれたお茶はあんまり美味くない。

 やることはやるが味の追及をする気はない男の味だな。


 同類に近いので理解できるし、俺よりマメだと思う。


「単刀直入に言うが、一年後そこそこ強くなっててくれりゃいい。蛍が納得するくらいにはな」


「……風連坂さんは懐疑的なんだね」


 アインに驚いた様子はなかった。

 何となく俺たちの関係性とかにも気づいてはいたのだろう。


「わかっていたか」


「彼女は露骨にしないけど、ひた隠しにするつもりもなさそうだからね」


 アインは自虐するように笑ってお茶を飲む。

 そしてまっすぐに俺を見つめてきた。


「僕がわからないのはエースケだよ。風連坂さんの反対を押し切って僕をパーティーに入れてるメリットは何なんだい?」


 アインにしてみれば気持ち悪いのかもな。

 何の取りえもない自分に親切にしてくれるのはなぜなのかと思うのだろう。


「友達だからじゃダメなのか?」


 これで納得してくれるならありがたいんだけどな。

 ゲームの主人公だからなんて説明はできないんだから。


「友達になってからなら納得したんだけど、なる前からエースケは親切だったよね」


 残念ながら少しも納得してくれなかった。



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