第101話「友達だから」
「はー、食った食った」
腹いっぱい肉を食べたウルスラは満足そうに腹をさすりながら歩いている。
「ウルスラ、かなり食べるね」
その隣でアインは目を丸くしていた。
「悪かったね。大食らいで」
ウルスラは憎まれ口を叩くが、表情は幸せそうでだらしないままである。
「いや、気持ちのいい食べっぷりだったよ」
「お、おう?」
アインの裏表のない発言にウルスラはちょっと赤くなった。
ここは黙って見守ろう。
蛍にそっと目配せすると彼女はこくりとうなずいた。
言わなくても通じたらしい。
彼らの少し後の日暮れ道を蛍と並んで歩く。
それなりに人がいるはずだが、日本の都市圏の繁華街に比べたらずっと静かだと言える。
細かい数字はわからないが、人口で言えばこっちのほうが少なそうだ。
魔法があってヒーラーとかいるわりに……とは言わないのが大人のたしなみである。
「こうして歩いてると、モンスターが跋扈してるなんて思えねーよな」
ウルスラが不意にそう言った。
「言えてるね」
アインが応じる。
「いにしえの人たちが心血そそいで何とか『安全圏』を作ったって話だからな」
ゲームではそう言われていたし、こっちの世界でも一般的な知識として知られているようだ。
だから俺の口から話しても何の問題もない。
「魔法などもモンスターに対抗するために開発されたそうですね。それがしが使う風光一刀流もそうだとか」
蛍も会話に加わる。
風光一刀流はちょっと強すぎる気がするな。
ゲームだと強いのは蛍を含めてほんの数人だけだったが、その数人が本当にやばい。
「錬金術師も昔はそうだったのかもしれないな」
過去に思いを馳せる。
俺の場合どうしてもゲームの設定を考慮してしまうが、この世界にはこの世界の歴史が息づいてるはずだった。
「錬金術師の場合はちょっと違うんじゃね?」
とウルスラが言う。
「もともと人々の役に立つための学問という印象が強いですしね」
蛍もそう意見を述べる。
そりゃそうなんだろうけどなぁ。
んんー、どう言えばいいんだろうか。
「まあいいや。ここで議論しなくても」
「肩透かしだな、おい」
ウルスラはずっこけたそぶりをする。
「今人の役に立ってるならそれでいいんじゃないかって気持ちが強くてな」
大事なのはその点だろうと言うと、三人は賛成した。
「そりゃそうだよね」
「正論すぎて身もふたもねーな」
アインとウルスラは苦笑しながら。
「真理を突いた一言だと思います」
蛍は真剣な顔をしてうなりながら。
何かが彼女の琴線に触れたのだろうか?
「伝統は誇りですが、現在も忘れてはいけませんよね」
彼女は小さな声で続ける。
おっと、今のつぶやきはもしかして……。
ハッとして彼女のほうをながめると、きょとんとした表情を向けられる。
「エースケ殿、どうかなさいましたか?」
「いや、何でもない」
この反応を見ると考えすぎだった気がしてきた。
そうだよな、いくら何でも蛍の個別ルートに入るには速すぎるよな。
寮の付近でウルスラ・蛍と別れ、アインと二人玄関のドアを開ける。
「ウルスラ、はすっぱな印象だったけどすごいいい子だよね」
「そうだな」
アインは予想通りかなりの好印象を持ってるらしい。
がさつな言葉遣いのせいで誤解されがちだが、ウルスラはいい子なんだよなあ。
たぶんだけど蛍ともアインとも上手くつき合っていけるだろう。
彼女に関して言えば心配しなくてもよさそうだな。
他に心配なキャラがいるので悩みがつきないポジションには違いない。
退屈する可能性だけはなさそうだが。
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