第73話 蛍はムッとした
「ないのですか……?」
アインはあきれたが、蛍はまだ困惑しただけだ。
俺に対する信頼度の違いだろう。
「蛍と同レベルとなったら上級生じゃないと無理だろう。いくら何でも無理さ」
不可能だということははっきり提示しておきたい。
「そりゃそうかもね」
アインもそれは認める。
蛍はどう思うかだが……。
「エースケ殿、一つだけうかがいたいのですが?」
「何だい?」
真剣な目をした蛍を見つめ返す。
「それがしの気のせいでなければずいぶんと先を見ていらっしゃると思うのですが、何年先を?」
鋭いな。
この場合は頼りになると言っていい。
「三年、五年先くらいかな」
対魔王戦で生き残れるくらいと今言っても信じてもらえないからな。
もしかしたら蛍だけは信じてくれるかもしれないが、試さなくてもいいだろう。
「三年先も同じパーティーで、という意味でしょうか? それでしたらローグを優先的に入れたいというお考えはわかります」
やばい、何かミスった。
俺に理解できたのは蛍が勘違いしたというだけだった。
しかし、ローグを勧誘するのに賛成してくれたのだから、否定するのもためらわれる。
「僕を入れたのもそういう狙いだったのか……今のところお荷物だから厳しかったんだけど。いや、三年後に期待されてるなら責任は重大か」
アインも納得したらしくぶつぶつ言った。
今さら違うとは訂正できないぞ、これ。
「まあな。お前らがそんな長く組む気はないっていうなら、また考え直すけど。学園時代のパーティーでずっと続くのも珍しいし」
だからこそ彼らも驚いたんだろう。
「いえ、それがしは別にいいですよ」
「僕も。組んでもらえるならありがたい」
二人はわりとあっさり肯定的返事をくれる。
蛍はともかくアインはもう少し悩むかと思ったんだが。
「いいのか、蛍? お前なら引く手あまただろ。もっと強力なパーティーに入れてもらうことだってできるぞ」
俺はともかくアインが将来世界を救う主人公だなんて、現段階でわかるはずもない。
さっさと見切りをつけて移動しても責められはしない。
「……エースケ殿、それはそれがしを案じておっしゃっているのですよね?」
ほんの少しムッとした顔で蛍は聞いてくる。
今まで彼女から敵意のようなものを向けられたことがなかったが、このピリッとした空気は違う。
見損なうなと怒らせてしまったかな?
「それともそれがしが友情より自身の野望を優先させる女だと、そう思っていらっしゃるので?」
彼女の表情から笑みという気配が消える。
これはかなり怖い。
「正直に言うと免罪符がほしいんだろうな」
ごまかそうとすれば事態は悪化する。
だから俺は本音を打ち明けた。
「蛍の好意に甘えっぱなしだが、本人は納得してのことだと。ただ単に好意につけこんでずるずる関係を続けてるわけじゃないと。卑怯だと思われても仕方ないやつさ」
自嘲気味に笑う。
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