第74話 倍に返すのでついてこい……という感じ

「エースケ」


 アインは笑わず、切なそうな目で見つめる。


「エースケ殿」


 蛍は何やらあきれた顔をした。

 愛想をつかされたのとは違うことだけはわかるが、どう思ったのだろうか。


「貴殿はかなり計算的に、計画的に動いてらっしゃるのに、こういう時だけ急に誠実になるのですね」


 そしておかしそうにくすっと笑われる。


「それはたしかに」


 アインが相槌を打つ。

 えっ? 何この流れ?


「将来ちゃんと得させてやるからついてこい、くらいのお気持ちでもよいと思いますよ? というかそちらのほうが貴殿らしいです」


 蛍が俺を見る目は優しく、好意にあふれている。


「エースケ、わりと自分のことはわかってないみたいだね。頭いいくせに馬鹿なところがあるって言うかさ」


 アインは口元をゆるめるどこか、時々ぷっと吹き出していた。

 俺、そんな愉快な発言をしちゃったのかなあ?


「今、俺に投資してくれたら将来倍にして返すから、信じてついてこい。……こんな感じか」


「はい!」


 蛍は笑顔で即答する。


「たしかにそっちのほうがエースケっぽいよね。風連坂さん、よく見てる」


 アインは返事をせず感心していた。

 そして俺の視線に気づくとあわてて咳払いをする。


「将来を信じて君についていくと決めたのは僕自身だ。責任は僕自身にあるから、エースケは気にしないで」


 こいつは急にイケメンな発言をしだしたな。


「わかった。……ダンジョン内でやるような会話じゃなかった気がするけど、俺たちらしいか」


「そうですね」


 俺が笑うと蛍も笑う。

 アインだけは苦笑のほうが強かった。


「要約すると第五階層を目指す。そして戻ったらローグの勧誘を考える。そういうことですね」


 と蛍がまとめてくれる。

 俺たちの約束についてスルーされたが、言うまでもないということか。


「ああ。何もローグにかぎらず、魔法使いやヒーラーを一緒に探してもいい。そっちのほうが効率的かな」


「んんー、知らない人を一気に増やすのはどうなんだろうね?」


 アインが疑問を投げかけてくる。


「ダメだったら別れればよいのですし、何事も試してみればよいだけでは?」


 と蛍はあっけらかんと豪快な返事だった。


「え、それでいいの?」


 アインはきょとんとする。


「一人ずつ増やすなら上手くいくとはかぎらないですからね」


 蛍はそう言ったあと、俺を見てつけ加えた。


「もちろん決めるのはエースケ殿ですから」


 まあ今のところどう考えても俺がリーダーだもんな。


「とりあえず勧誘かけてみよう。募集しても人が来るとはかぎらない」


 自虐すると蛍は優しく微笑み、アインは悲しい顔になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る