第59話 余計なトラブルはめんどう
「はい。使ってくれたまえ」
ウィガンは何と自分が持ってる黒カバンから上級道具袋を二つ取り出した。
「そんなところに入れてたんですか」
さすがにこれは予想外である。
「ひゃひゃひゃ。貴重品を雑に扱うとは思わないから、かえって安全なのさ」
そりゃまあそうかもしれないが。
フィラー金貨を渡してかわりに袋を受け取る。
「この中級道具袋はどうするべきでしょう?」
蛍は俺から上級道具袋を受け取りつつ聞いてきた。
本当なら好きに処分してもらっていいんだが、俺が作ったものだから彼女は質問したのだと見当はつく。
「売ってもいいんでしょうか、これ?」
俺が聞くとウィガンはうなずく。
「ああ。錬成部の名前で売るのは一般的だね。君は入部したのだから問題ない」
「細かいことを気にしても仕方ないしな」
とエドワードはあきらめた顔になる。
「売り上げの二割は部費で、あなたの取り分は八割になるけどそれでもいい?」
リプレに聞かれたのでうなずいておく。
部に所属する以上、部費の稼ぎに貢献するのは覚悟できている。
部費が増えるとご褒美としてやれるが増えていく。
特に錬成部はその恩恵が大きいので、可能な範囲で貢献していこう。
「そういう意味でボードゲームは惜しかったな。まあ我々の売る力なんてたかが知れてるので、ロックフォードやグルンヴァルトを頼るのは当然だが」
エドワードは本当に残念そうに言う。
「アンダーソン先輩、欲をかいてもいいことないですよ」
リプレがたしなめる。
「そうだな、すまん」
エドワードは俺に頭を下げた。
「高い評価をいただいたと受け止めます」
賛辞の一種だと思えば腹を立てることもない。
「大物だな」
エドワードは目を丸くする。
「期待の超大型新人ってところかしら」
リプレはうれしそうに手を叩く。
先輩たちの空気は最初の微妙さが消えて、歓迎ムードになってるのは喜ばしいことだ。
意外なところで評価されるもんだな。
「ところでそっちの女の子は……?」
エドワードが蛍を見る。
「それがしは入部してもご迷惑なのでは?」
彼女はそう言った。
「いや、男子二名は掛け持ちじゃないんだろう?」
エドワードにうなずいてみせる。
ダンジョン探索部には断られたからな。
俺たちは錬成部一本ということになる。
「だったらいいよ。掛け持ち三人だったらつらいが、一人くらいならな」
「ありがとうございます」
蛍も入部することになった。
これは予想してなかったな。
「一年が三人かあ。しばらくは安泰ね」
リプレがうれしそうに手を叩く。
おそらく錬金術師ヒロインも入って一年は四人となるとみるが。
「歓迎会でもやらない?」
「してもらえるんですか?」
そう言えばあったなあと思い出しながら、リプレにたずねた。
「二人しかいないから食堂に行くか、外にでも出て食べるかね」
「外に行くか」
リプレの言葉を継いでエドワードが言う。
外か、実はまだ一歩も出たことがないからどうなってるかわからないな。
ゲームの時とどれくらい違いが出ているんだろう。
楽しみではあるな。
「外のどこに行きますか?」
「一年じゃ地理にうといだろうから、わかりやすい目印がある店がいいだろう」
俺たち一年は話に加わらず、先輩たち二人で進めていく。
入りたくても入れないだろうから、先輩たちの判断は正しい。
「そうですか? 寮を出たところで待ち合わせて、そこから移動すればいいのでは?」
リプレの提案はなるほどとうなずけるものだった。
「そうだな。ただ、俺たちは非戦闘員だし、戦えるサムライも女の子だから留意をしよう」
戦闘スキルの低い錬金術師三人プラス女子となると、犯罪者から見ればカモの群れにしか見えないだろうな。
そんじょそこらの犯罪者なんて蛍にまとめて秒殺されるだけだと思うが、相手はわかるのかというのは別問題だ。
「それがしがいるので少々の荒事なら……」
蛍は先輩に気遣い無用と言いたかったのかもしれないが、俺がそっと制止する。
「エースケ殿?」
「余計なリスクを回避するという姿勢は正しいと思うよ」
一応学園のイベントで大小のトラブルはあったもんな。
何か起こって計算や計画がズレるとめんどうだ。
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