第57話 ウィガンは意外と柔軟

「順調だな」

 

 これだけフィラー金貨が集まったら、専用錬成釜や上級道具袋を購入するという選択肢が出てきたな。


 錬成釜は他に入手手段があるけど、上級道具袋は買うか作るしかない。

 

「よし、決めた。上級道具袋を買おう」


「えっ、買えるの?」


 ぎょっとしたのはアインだった。


「買えるんじゃないか?」


 相場はまだ確認してないが、ゲームの時だとフィラー金貨一枚前後である。

 むしろ少し慎重だったかもしれない。


「す、すごいね。三年になってもなかなか手に入らないと聞いたんだけど」


 アインが言ってることはウソじゃない。

 錬金術師は自分で作れるので例外として、そうじゃなければ三年で手に入れるのが一般的だ。


 ちなみにゲームの主人公だとパーティーで素材を集め、ヒロインの錬金術師に作ってもらうのがセオリーである。


「錬金術師でよかったなと思う次第だ」


 主人公でもない、錬金術師でもないとなると、ハードルが高くなるのは事実だからなぁ。


「何か違う気がするけど……」


 アインは困惑したものの、踏み込んでこなかった。

 まだまだ遠慮されてるらしい、残念。


「エースケ殿は規格外の道を歩んでらっしゃるので、平凡な輩は参考にならないのではないですか?」


 蛍にそんな指摘を受けた。

 今のところ普通を逸脱しまくってる自覚はある。


 だって凡人のエースケが普通の道を歩んでたら、対魔王戦争でどんな悲劇に見舞われるかわかったもんじゃない。


 大規模な戦争に巻き込まれても大丈夫な状態にしておこうと思えば、ガンガンいくべきなのだ。


「もしもの時に備えておこうと思ってさ」


 ただ、現段階で魔王との戦争の激化は言っても信じてもらえるかわからない。

 あいまいな言葉で濁しておくほうが無難だ。


 蛍には言っても平気な気はしてるけどな。


「転ばぬ先の杖というやつですかな。立派な心がけだと思います」


 蛍は感心し、アインはなるほどと納得したようである。


「ところで上級道具袋はどこで買えるのです?」


「錬成部の先輩たちなら知ってるだろう」


 蛍の問いにそう答えた。

 

「仮に先輩たちが知らないとしても、顧問のウィガン先生なら確実に知ってるだろうさ」


「恐れ入りました。そこまでお考えでしたか」


 蛍は大きく目を見開き、


「すごい。シジマくんって、本当にとんでもなくすごい……」


 アインは圧倒されてるという目を向けてくる。

 何か変な勘違いされてないか?


 訂正できる自信がないからスルーしておくか。


 錬成部に戻ってくると、ちょうどウィガン先生が来ていた。


「おや、入部したんだね? それも他の生徒と一緒に」


 彼は俺に気さくに話しかけたのち、観察するような目をアインに向ける。


「ただ、そっちの彼は前衛ジョブの匂いがするね?」


「そ、素材集めの手伝いならできると思うので!」


 アインはとがめられたと勘違いしたか、必死に言った。


「かまわんさ。錬成スキルを持ってないと入部できない、なんてルールはないからね」


 ウィガンは鷹揚に笑う。

 この柔軟な発想を頼りにさせてもらおう。

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