第55話 え、毎日?
「大した問題じゃない。錬成部に入ったっていくらでももぐれるしな」
ダンジョン探索部で強いキャラはウィル・ベーカー以外にも何人かいるが、全員代替可能だ。
「エースケ殿がいいならいいのでは?」
蛍の表情はちょっとやわらかくなっている。
うん、気を取り直していこうぜ。
「ベーカー先輩に入部許可を出すべきだったと思わせられたら、俺たちの勝ちだ」
「なるほど!」
蛍の機嫌はすっかりなおったようで何より。
「僕、前衛ジョブなんだよね。錬成部で本当にいいのかな?」
アインは不安を感じたのか、急にそんなことを言い出す。
「錬成部に入って毎日ダンジョンにもぐってたら、いやでも強くなれるだろ」
何部に入ろうがそこは関係ない。
部ごとに隠しボーナスでもあるのかと思って調べたが、何もなかった。
誰と仲良くなるかでパーティー構成が変わるって点が大事な要素だったのである。
「ま、毎日!?」
アインが目を見開いて軽くのけぞった。
そんな変なことを言ったか?
ちらりと蛍を見てみれば、彼に劣らず驚いていた。
「毎日とは……さらりとおっしゃるあたり、エースケ殿はおそるべし」
あれ? 蛍だって入学式前は毎日もぐってたよな?
こいつにだけは驚かれたくないんですが。
「何で蛍まで驚く? お前だって毎日もぐってたのに」
「あれは下見を兼ねてましたし、授業もなかったからですよ?」
蛍は何を言ってるんだという顔で切り返す。
「授業が終わったあとも毎日もぐるとなると、エースケ殿は鉄人クラスと申し上げるしかありません。わが流派でもほとんどいない、すばらしい精神力ですね」
彼女はドン引きしたと言うより、尊敬しているというまなざしを向けてくる。
あれ、そんな超人みたいな扱いになるのか……。
そのへんは考えたこともなかったな。
「それがしもまだまだ未熟ですね。エースケ殿を見習わなければ」
そんなはりきるようなもんでもないだろうに。
でも、蛍が毎日ついてくれるならダンジョン探索は一気に楽になるな。
「何なら毎日つき合ってくれる?」
「ええ。可能なかぎり、お供しましょう」
蛍は笑顔で快諾してくれた。
待ってましたと言わんばかりの反応の速さが微笑ましい。
ちらりと胃もたれでも起こしてそうな顔のアインを見て、口を開く。
「言っておくがアイン、お前も来いよ」
「え、やっぱり?」
違ってたらうれしいのに、という顔になりながらも彼は拒否しなかった。
あきらめてるような空気を放っている。
「とりあえずの目標を立てておくか。やみくもにダンジョンにもぐれと言ってもいやだろうしな」
と俺が言うと蛍が口を挟む。
「ゴリアテ殿は戦士のジョブをお持ちなのですから、ジョブレベルの向上を目標になさるといいでしょう」
「アインはそれでいいけど、問題は俺だな」
錬金術師のジョブレベルは戦闘じゃあがりにくい。
錬成をこなしててようやく四である。
「ジョブレベルは今四だから、とりあえず七を目指すか」
このペースならジョブレベルが七になるころにスキルレベルがⅣになるだろうと予想してだ。
ジョブレベルが七になること自体に意味はない。
一応ジョブレベルがあがれば死ににくくなるので、まったくの無意味ではないが。
「えっ、俺のジョブレベルより二も高い。錬金術師のジョブレベルってそんなにあがるものなの?」
アインはポカンとしてるので現実を教えておく。
「残念ながら入学式の一週間前くらいから、コツコツもぐってこつこつ錬成した結果だ」
「あ、そうなんだ」
アインはたちまちげんなりした顔になる。
ゲーム時代の話だが、強くなるショートカットなんて主人公専用のはずだぞ。
蛍みたいに一部の人間は学園に入る前から強いってことはあるけども。
剣術部に行って蛍が入部を申し込むと喜んで許可をくれた。
俺たちとダンジョンにもぐると言っても、錬成部とツテができるならとあっさり認められる。
「ダンジョン探索部とはえらいちがいだね」
善良そうなアインすらこぼしたくらい、扱いは違っていた。
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