第54話 ウィル・ベーカー

 噛みつき石だけは蛍に処理してもらったが、おおむね俺たち二人でモンスターを倒してドロップを集める。


「こんなにいらないアイテムを集めてどうする?」


「スキルレベルをあげるんだよ。あと、お前の道具袋を作る素材も集める」


 前者がメインだが、アインの道具袋を作るのも忘れてはいけない目的だ。

 今のうちに中級道具袋を持っておけばだいぶ楽ができる。


「え、僕の分も?」


 驚くアインに聞いた。


「作らなくていいのか? 今作っておくといいぞ」


「作りたいけど、お金は?」


 アインがためらいがちに問いかけてくる。

 

「もちろん取る」


 無料でできるわけがない。

 

「蛍は護衛してもらってるからもらわなかったけどな」


 むしろ護衛代のほうが高いまである。

 頃合いを見て返していかないと、借金額がすごいことになりそうだ。


「だよね」


 アインががっくりと肩を落とす。


「でも、僕はお金がないよ」


「素材集めを手伝ってくれるなら、まけてやるよ」


 本当の意味でこいつを相手に商売をしていくつもりはない。

 いっぱい恩を売ってがんじ絡めにしてやろうとは思っているが。


「そっか、助かるよ」


 第一階層は一通り見終わったな。

 人影はぽつぽつあったので、もぐってる一年はいるんだろう。


 問題はダンジョン探索部がどこにいるかだな。


「蛍がいるから、ダンジョン内部で待っていても安全なわけだが……」


 残念ながら中級道具袋にも収容限界がある。

 収容できないのにまだモンスターと戦うのはもったいないように思う。


 しょせん第一階層のモンスター、と割り切る気はない。

 そんなこと言ってるとレアモンスターと遭遇しちゃったりするからな。


「一回戻るか……さっそく錬成釜を使わせてもらおう」


 と俺が言うと二人はうなずいた。

 ここで粘る意味がないと理解してもらえて何よりだった。


 ダンジョンの出入り口まで戻ってきたところで、六人組の集団と遭遇する。

 長身で金髪に豹のような黄色い目はダンジョン探索部の部長だな。


 と思ってたら視線がいきなり合う。


「おや、一年だけでもぐってる感心な生徒がいるのか!」


 上手いこと興味を持ってもらえたらしい。

 ただ、残りのメンバーからは非好意的な視線がそそぐ。


「じつはダンジョン探索部に入部したくて、人を探してるのですが」


 何も知らない顔で話しかけると、豹のような男子生徒は破顔する。


「そうだったのか! じゃあ俺のことだな! 俺がダンジョン探索部部長、ウィル・ベーカーである!」


 ダンジョン内なのに明るく大きく、緊張感のかけらもない声。

 これがウィル・ベーカーだ。


 ダンジョン探索部に入ることを選べば特定の状況で参戦してくれる、助っ人キャラである。


「紹介状のようなものを持って来ました」


 俺が差し出した手紙をその場で開き、ふむふむとうなずきながら読む。


「錬成部と掛け持ちか! その向上心はよし! だが、うちの部は掛け持ちは認めておらん!」


 あれ、いつの間にそんなルールが。


「ダメなんですか?」


「せめてうちに先に来ていればな。だが、先に錬成部に入った者は認められない!」


 ウィル・ベーカーははっきりとそう言った。

 彼が言うならあきらめるしかなさそうだな。


「わかりました。お時間をいただきありがとうございました」


「いや、礼には及ばない。タイミングさえあえば君たちはスカウトしたかったのだが」


 ウィル・ベーカーは心苦しそうに言い、仲間を連れて去って行った。


「……さてと、これは大きな誤算だったな」


 ぽつりと言う。


「まさかさわやかに断られるとはね」


 とアインが続く。


「俺たちはともかく蛍は完璧に巻き添えだな」


 蛍は錬成部に入部していないので、入部する資格はあるはずだった。

 彼女がどう思ってるかはさておき、交渉する余地くらいはあるかと思ったんだが。


「おとなしく剣術部に入りますよ」


 蛍は感情を殺した声で言う。


「そっか」


 彼女は剣術部に入ろうが、ダンジョン探索部に入ろうが、シナリオ的に大きな影響はない。


 それが幸いと言えば幸いなんだが。

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