第53話 二人で戦おうか
「おっしゃることはわかりますが、そう上手く会えますか……?」
アインの疑問ももっともだと思う。
「だけど、こうしてたって埒はあかないしな。どうせダンジョンにはもぐるつもりだったし、ついででいいじゃないか?」
「御意」
蛍は俺の意見を支持し、アインもうなずく。
「そりゃそうだね」
「ついで……いや、仕方ないんだけど」
ちょっと遠慮なく表現だったかな。
先輩はがさごそと机の中をあさって紙とペンを取り出し、さらさらと書いている。
「はい。書いたから、これを見せるといいよ」
「先輩って苦労するタイプですね」
きっと留守番を押し付けられたんだろうな。
そんな感じがする。
「気づいてもらえてうれしいよ」
先輩はちょっと悲しそうだった。
紹介状を受け取って俺たちはダンジョンを目指して部屋を出る。
そこで蛍に質問された。
「会えなかった場合はどうします? ダンジョンって広いですよね」
「第二階層をうろついて会えそうになかったら、戻って剣術部に行くか。蛍は剣術部でもいいよな?」
他にどうしようもない。
念のため蛍の意思を聞いておく。
「ええ」
蛍は本当にどちらでもよさそうである。
「風連坂さん、ダンジョン探索部は残念だろうね」
とアインが言った。
蛍なら一年でもエース級の戦力になるだろ。
ダンジョン探索部が大きく落胆するのは間違いない。
「縁がない時はやむをえませんよ」
蛍はそっけなく答える。
彼女の中では部活は重要度が低いんだろうな。
部活をやらないと成長しないタイプじゃないから、口を出さなくてもいいだろう。
メインヒロインとサブヒロインは基本的にほっといても強くなるタイプがほとんどだ。
唯一の例外は錬金術師の子だが……。
俺たちは無言になってまっすぐにダンジョンに向かう。
何だろうな、イベントを進行させてはいるものの、微妙に順調とは言いがたい感じだ。
途中でばったりでくわさないかなーと思っていたが甘かった。
ダンジョンの入り口まで誰とも会わなかったのだ。
勧誘合戦が熱心で生徒会の仕事が増えてるらしいので、誰かとすれ違うかと思ったんだがな。
お色気たっぷりの先輩と遭遇したのが唯一のイベントだった。
何か変な感じになってきてる気がするなぁ。
エースケになってから気にせずガンガンやったせいだろうか。
今後どんな変化になって現れるのか、ちょっと楽しみだな。
なーんて考えてるうちにダンジョン内に突入する。
「それがしがモンスターと戦い、エースケ殿とゴリアテ殿がドロップを集めるという方針でいいですか?」
蛍は刀を抜いて確認してきた。
「いや、アインにも戦ってもらう。蛍には援護をしてもらいたい」
「ええ、僕?」
蛍は怪訝な顔をし、アインはギョッとして自分の顔を指さす。
「お前が強くなってくれたら、俺は安心して蛍と組めるようになる」
「なるほど」
と言ったのは蛍で、彼女の瞳はキランと輝いた。
どうやらやる気になったらしい。
「授業でペアを組んでたんだから、何となくはわかるんじゃないか?」
「全部風連坂さんが何とかしてくれたから……」
アインは恥ずかしそうに目をそらしながら話す。
思ってた以上に蛍頼みだったか。
「噛みつき石が出たら蛍が倒して、それ以外はアインが頑張れ」
「う、うん」
こうして変則的なチームが始動した。
アインの動きはけっして悪くない。
緊張もあってぎこちない気がするが、わらわら人形にナイフを二回当てて倒して、コボルトも三発で倒す。
一対一なら何とか勝てそうだな。
蛍が油断なく周囲を見張ってるおかげもあるだろう。
不意打ちの心配をしなくていいという安心感はやっぱり大きいからな。
ドロップアイテムを拾うのだが、アインが一人で倒しただけだとしょっぱい。
金色の腕輪の効果はパーティーメンバーまでは効果が及ばないからな。
「エースケは戦わなくてもいいのかい? 戦ったほうがドロップアイテム、増えるんじゃない?」
金色の腕輪の効果をアインが知ってるのは、蛍が説明したからかな?
ちらりと彼女を見てみると小さくうなずいた。
「それもそうだな。二人で戦おうか」
俺もアインのことをとやかく言えるほどの強さじゃないもんな。
安全ゾーンを増やすためにも、戦って経験値を稼いでおこう。
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